頭中将を見たまふに 夕顔14章06
原文 読み 意味
頭中将を見たまふにも あいなく胸騒ぎて かの撫子の生ひ立つありさま 聞かせまほしけれど かことに怖ぢて うち出でたまはず
04172/難易度:☆☆☆
とう-の-ちうじやう/を/み/たまふ/に/も あいなく/むね/さわぎ/て かの/なでしこ/の/おひたつ/ありさま きかせ/まほしけれ/ど かこと/に/おぢ/て うち-いで/たまは/ず
頭中将とお会いになるにも、わけもなく胸騒ぎがして、あの撫子のおい育つ様子を聞かせたく思われるが、恨み言をおそれて口になさらない。
頭中将を見たまふにも あいなく胸騒ぎて かの撫子の生ひ立つありさま 聞かせまほしけれど かことに怖ぢて うち出でたまはず
大構造と係り受け
古語探訪
撫子 04172
頭中将と夕顔(常夏)との間に生まれた女の子。頭中将は、母子ともにゆくえを知らない。
かこと 04172
なぜ夕顔を死なすようなことになったのかという非難・恨み言。 こういうとあまり賛成を得られそうにないが、ここでも空蝉と夕顔は対照的に描かれている。それは空蝉が身につけていた上着だけ残して姿を隠したのに対して、夕顔は光と添い寝した衾にくるまれて火葬されたため、夕顔の衣服は手元にないのである。そこで光が正体がばれないように配慮しながら、代わりの装束を用意するのである。性愛の思い出がなく形見だけが残る空蝉との恋愛と、性愛の思い出はあるものの形見の品のない夕顔との恋愛。ふたつの恋愛の最重要の道具が衣服である。歌のやりとりが恋の仲立ちとして使われるが、性の直接の証しはまさに「きぬぎぬ(男女が性愛を愉しんだよく朝、衣服を交換すること。また交換しあった衣服。転じて、性交渉のすんだ翌朝)」であるのだ。