なほかのもぬけを忘 夕顔13章04
原文 読み 意味
なほ かのもぬけを忘れたまはぬを いとほしうもをかしうも思ひけり かやうに憎からずは 聞こえ交はせど け近くとは思ひよらず さすがに 言ふかひなからずは見えたてまつりてやみなむ と思ふなりけり
04162/難易度:☆☆☆
なほ かの/もぬけ/を/わすれ/たまは/ぬ/を いとほしう/も/をかしう/も/おもひ/けり かやう/に/にくから/ず/は きこエ/かはせ/ど けぢかく/と/は/おもひよら/ず さすがに いふかひなから/ず/は/みエ/たてまつり/て/やみ/な/む と/おもふ/なり/けり
今なおあのもぬけの殻をお忘れにならず歌に詠みこまれたことを、申し訳なくも雅とも思うのであった。このように憎からぬ程度には手紙を取り交わすのだが、じかに逢おうとは思いもよらず、それでもさすがに、情けを知らぬでもない女と思われてから去りたいと思うのであった。
なほ かのもぬけを忘れたまはぬを いとほしうもをかしうも思ひけり かやうに憎からずは 聞こえ交はせど け近くとは思ひよらず さすがに 言ふかひなからずは見えたてまつりてやみなむ と思ふなりけり
大構造と係り受け
古語探訪
なほかのもぬけ忘れたまはぬ 04162
光が歌の中に「うつせみ」を詠みこんだことに対して、空蝉は、今なおあのもぬけをお忘れにならないと思ったのである。
いとほしうも 04162
相手にすまないと思う気持ち。逃げたことに対して申し訳なく思っているのである。
をかしうも 04162
何に対して言っているのかわかりにくいが、この歌の詠みぶりに対して言っていると取った。「をかし」は知的な感じがあるので、「うつせみ」を詠みこんだテクニックに対して言っているのだろう。
言ふかひなからず 04162
「言ふかひなし」の否定。「言ふかひなし」は、お話にならないほどひどい。情けもなにも知らない、ほどの意味。「言ふかひなからず」はその否定だから、情けを知らぬでもない、それなりに情けがわかる、といった意味になる。
やみなむ 04162
この関係を終わろう。逢いたいと行ってきても逢わず、押しかけられた時には、うまく煙にまくといった、男女の情を理解しない女として今まできたが、いざ旅立ちにあたり、まったく情を解さない女では終わりたくなかったのである。それほど「心細」(前回)かったのだ。