空のうち曇りて風冷 夕顔12章17

2021-05-14

原文 読み 意味

空のうち曇りて 風冷やかなるに いといたく眺めたまひて
 見し人の煙を雲と眺むれば夕べの空もむつましきかな
独りごちたまへど えさし答へも聞こえず かやうにて おはせましかば と思ふにも 胸塞がりておぼゆ

04157/難易度:☆☆☆

そら/の/うち-くもり/て かぜ/ひややか/なる/に いと/いたく/ながめ/たまひ/て
 みし/ひと/の/けぶり/を/くも/と/ながむれ/ば/ゆふべ/の/そら/も/むつましき/かな
ひとりごち/たまへ/ど え/さしいらへ/も/きこエ/ず かやう/にて おはせ/ましか/ば と/おもふ/に/も むね/ふたがり/て/おぼゆ

空がとみに曇り、風も冷たいのに、なんともひどく物思いに沈まれて、
《愛した人を葬った煙があの雲かとおもい 眺めれば、悲しい夕暮れの空とも心通う気がする》
と独り言のように歌をお洩らしになるが、右近は差し出がましく歌をお返し申し上げることができず、自分ではなく、女君がこのように君のお側にいらっしゃったならばと、思うにつけ胸がふさがってならない。

空のうち曇りて 風冷やかなるに いといたく眺めたまひて
 見し人の煙を雲と眺むれば夕べの空もむつましきかな
独りごちたまへど えさし答へも聞こえず かやうにて おはせましかば と思ふにも 胸塞がりておぼゆ

大構造と係り受け

古語探訪

夕べの空もむつましきかな 04157

「むつましき」は気持ちが通じ合える関係にあること。「夕の空も」とあるので、普段、夕の雲とは気持ちが通じ合えないが、という意味が背後にかくれている。そこで、悲しい(夕暮れの空)と、訳をつけたした。「さし答え」は、差し出がましく答えること(ここは歌で応じること)。右近の身分として、光の独詠に、歌で応じることはしなかったのである。身分違う右近は歌を差し控えたとの注があるが、おかしな注だ。相手が女房で、身分が低かろうと、歌を交わすのに支障はないはずである。しかし、ここで右近がでしゃばらなかったのは、身分の問題にあるのではない。また、そっとしておこうと思ったというのも、おそらく現代的な解釈である。右近は光に仕える女房として、主人への共感を歌にすることを大事な勤めとして求められているのである。歌を挟まなかった理由は、右近の微妙な立場にあるのだと思う。今の主人は光であり、夕顔に向けられた歌へ、代わりに歌をよむ立場にはない。かといって、光に同意する歌を詠めるほどには、まだ夕顔から距離がおけていないのだろう。「かやうにて」は、私が今いるように。

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