この方の御好みには 夕顔12章16
目次
原文 読み 意味
この方の御好みには もて離れたまはざりけり と思ひたまふるにも 口惜しくはべるわざかな とて泣く
04156/難易度:☆☆☆
この/かた/の/おほむ-このみ/に/は もて-はなれ/たまは/ざり/けり と/おもひ/たまふる/に/も くちをしく/はべる/わざ/かな とて/なく
「その方面でのお好みに、全然あわぬものでもなかったのだと存じますにつけ、残念でならない定めです」といって泣く。
この方の御好みには もて離れたまはざりけり と思ひたまふるにも 口惜しくはべるわざかな とて泣く
大構造と係り受け
古語探訪
この方の御好み 04156
この方面での好み、すなわち、好きな女のタイプ。「方」は光を指すのではない。
もて離れたまはざりけり 04156
ちょうどぴったりだと訳す注があるが、光様のタイプの女性として、ご主人様は、まったくだめだったわけではないのだなという謙譲表現である。右近の身分、右近が仕えていた夕顔の身分からして、光の好みにぴったりだなんてことを右近が発言できるわけがない。離れすぎていなかったのだという婉曲表現で、そこそこタイプだったのだと匂わせているのである。その会話のひだをとらえず、ぴったりなんて訳しては、敬語も婉曲も身分さも消え、平安文学は意味を失う。
わざ 04156
この場合、夕顔が短命で、光と死別するこる自体となったことをいう。