苦しき御心地にもか 夕顔11章03
原文 読み 意味
苦しき御心地にも かの右近を召し寄せて 局など近くたまひて さぶらはせたまふ 惟光 心地も騒ぎ惑へど 思ひのどめて この人のたづきなしと思ひたるを もてなし助けつつさぶらはす
04133/難易度:☆☆☆
くるしき/みここち/に/も かの/うこん/を/めし/よせ/て つぼね/など/ちかく/たまひ/て さぶらは/せ/たまふ これみつ ここち/も/さわぎ/まどへ/ど おもひ/のどめ/て この/ひと/の/たづきなし/と/おもひ/たる/を もてなし/たすけ/つつ/さぶらは/す
苦しいご加減のなかでも、あの右近をお召し寄せになり、部屋などをご自身の近くにお与えになって仕えさせになる。惟光は、君の容態に気もそぞろながら感情を押さえ、この右近がよるべなく不安に感じているのを世話し助けてやりながら、君にお仕えするようはからう。
苦しき御心地にも かの右近を召し寄せて 局など近くたまひて さぶらはせたまふ 惟光 心地も騒ぎ惑へど 思ひのどめて この人のたづきなしと思ひたるを もてなし助けつつさぶらはす
大構造と係り受け
古語探訪
心地も騒ぎ惑へど 04133
主人である光の容態が心配でならないが、ということ。
思ひのどめて 04133
意思の力で気持ちの動揺を押さえ。「思ひ」によって「のどめる」、あるいは揺らぐ「思ひ」を「のどめる」であり、いずれにしろ意志の力で感情を制御する。
この人のたづきなしと思ひたるを 04133
右近が主人の夕顔を失い、同僚である五条の家の女房たちと縁を断ち、自分をよるべのない存在だと不安になっていること。
もてなし助けつつさぶらはす 04133
「もてなし助け」 は、惟光が不安状態にある右近の世話をしてやること。惟光が主人の容態を心配しながら動揺を押さえ、右近を世話を焼くのは、右近が可愛そうだからではない。右近を光に「さぶらはす」ためである。直前に光が「さぶらはせたまふ」とあり、またここで惟光が「さぶらはす」とあるのは、単に叙述を繰り返したのではない。光が右近を仕えさせようとしたが、よるべなさから右近はしっかりと光にお仕えできなかった。そのため、惟光は主人のために右近がちゃんと仕えられるよう面倒をみたのである。光の病態が気になりながらも、その心配を押さえこんだのは、右近の世話を焼くためではなく、光が右近を仕えさせたいと考えているので、その主人の意を汲んで、そのために立ち働いているのだ。行間を読む姿勢がないと、へたくそな文章だなで終わってしまう。かつて源氏物語の文章を批判した人たちは、想像するにこの手合いが多かったのではないか。