あやしう夜深き御歩 夕顔10章22
原文 読み 意味
あやしう夜深き御歩きを 人びと 見苦しきわざかな このごろ 例よりも静心なき御忍び歩きのしきるなかにも 昨日の御気色の いと悩ましう思したりしに いかでかく たどり歩きたまふらむ と 嘆きあへり
04130/難易度:☆☆☆
あやしう/よぶかき/おほむ-ありき/を ひとびと みぐるしき/わざ/かな このごろ れい/より/も/しづごころ/なき/おほむ-しのびありき/の しきる/なか/に/も きのふ/の/みけしき/の いと/なやましう/おぼし/たり/し/に いかで/かく たどり/ありき/たまふ/ら /と なげき/あへ/り
不審な深夜のお忍びを女房たちは、「見ていられない行いだこと。ちかごろ、いつにないほどそわそわしたお忍び歩きを続けられるなかでも、きのうのご様子は、とてもお加減悪く苦しんでいらっしゃったのに、どうしてこうもふらふらとお歩きになるのだろう」と、嘆きあった。
あやしう夜深き御歩きを 人びと 見苦しきわざかな このごろ 例よりも静心なき御忍び歩きのしきるなかにも 昨日の御気色の いと悩ましう思したりしに いかでかく たどり歩きたまふらむ と 嘆きあへり
大構造と係り受け
古語探訪
あやしう 04130
末尾の「嘆きあへり」にかかるのではないかと感じるが、ここは無難に諸注に合わせ「御歩き」にかかるとしておく。さらに気になるのは音便変化。どういう場合にそれが起こるのか、一度じっくり研究してみないといけないと前から感じているが、いまだ手がつけられずにいます。「人々」ここはお付きの女房であろう。
見苦しき 04130
現代語の「見苦しい」は相手の行為・容貌の醜さを言う形状形容詞としての要素が強いが、古語の「見苦し」は見ている側の気持ちを表す心情形容詞としての要素が強い。従って、安易に見苦しいと訳すべきではないであろう。御付きの女房たちが主君である光に対して見苦しいというのは強すぎる。
わざ 04130
行為・行動。
しきる 04130
立て続けにそうする。「たどり」は手探りするように。
ここのように、光・右近・惟光という主人公たちから、スポット・ライトを女房たちに切りかえる手法は、物語の構造を重層的にさせる効果がある。舞台役者の背後にコーラスグループがいるような感じ。