道理なれどさなむ世 夕顔10章17
原文 読み 意味
道理なれど さなむ世の中はある 別れと言ふもの 悲しからぬはなし とあるもかかるも 同じ命の限りあるものになむある 思ひ慰めて 我を頼め と のたまひこしらへて かく言ふ我が身こそは 生きとまるまじき心地すれ とのたまふも 頼もしげなしや
04125/難易度:☆☆☆
ことわり/なれ/ど さ/なむ/よのなか/は/ある わかれ/と/いふ/もの かなしから/ぬ/は/なし とある/も/かかる/も おなじ/いのち/の/かぎり/ある/もの/に/なむ/ある おもひ/なぐさめ/て われ/を/たのめ/と のたまひ/こしらへ/て かく/いふ/わがみ/こそ/は いき/とまる/まじき/ここち/すれ と/のたまふ/も たのもしげ/なし/や
「無理もないが、それが世の常であり。死別というものは悲しくない場合などない。長生きでも短命であっても、同じように命には限りがあるもので。自らそう思い慰めて、自分を頼りにせよ」と、無理にも取り繕いなさるが、「こう言うわが身は、これ以上生きていられそうにもない気持ちで」とおっしゃるにつけても、とてもまあ頼もしくは思えないこと。
道理なれど さなむ世の中はある 別れと言ふもの 悲しからぬはなし とあるもかかるも 同じ命の限りあるものになむある 思ひ慰めて 我を頼め と のたまひこしらへて かく言ふ我が身こそは 生きとまるまじき心地すれ とのたまふも 頼もしげなしや
大構造と係り受け
古語探訪
道理 04125
同じ煙となってしまいたいという、右近の気持ちはもっともであると、先ず光は相手の意見を受け止める。
さなむ世の中はある 04125
「さ」は文脈ないしはその場の状況を受けるのであって、具体的な受ける言葉はない。世の中とはそうしたものだ、すなわち、死別は避けられぬのだということ。
別れと言ふもの悲しからぬはなし 04125
「別れと言ふもの」の後に「の」を入れ、「死別というもので悲しくない場合はない」と同格に訳す解釈もあるが、すなおに主格でよかろう、「死別というものは悲しくない場合はない」。
とあるもかかるも同じ命の限りあるもの 04125
長命でも短命でも同じように命に限りがある、すなわち、長命短命にかかわらず寿命に限界がある点では同じだとの意味。「さなむ世の中はある」の具体的な説明。
のたまひこしらへて 04125
「こしらへ」は、この場合相手のために言葉を工夫してなぐさめること。しかし、光自身その言葉に反して悲しみゆえ生きて行けないというのだから、「我を頼め」もないものだというのが、「頼もしげなしや」との語り手の評。もちろん、これは光への批判ではなく、光の悲しみに語り手が同調し、いとしむように語っているのである。ある注釈は、からかっていると注するが、むろん、からかっているのではない。
や 04125
詠嘆。読者への共感の誘い。何と~ではないでしょうか。