子どもはいと見苦し 夕顔01章07

2021-03-31

原文 読み 意味

日ごろ おこたりがたくものせらるるを 安からず嘆きわたりつるに かく 世を離るるさまにものしたまへば いとあはれに口惜しうなむ 命長くて なほ位高くなど見なしたまへ さてこそ 九品の上にも 障りなく生まれたまはめ この世にすこし恨み残るは 悪ろきわざとなむ聞くなど 涙ぐみてのたまふ かたほなるをだに 乳母やうの思ふべき人は あさましうまほに見なすものを まして いと面立たしう なづさひ仕うまつりけむ身も いたはしうかたじけなく思ほゆべかめれば すずろに涙がちなり 子どもは いと見苦しと思ひて 背きぬる世の去りがたきやうに みづからひそみ御覧ぜられたまふと つきしろひ目くはす

04007/難易度:☆☆☆

ひごろ おこたり/がたく/ものせ/らるる/を やすから/ず/なげき/わたり/つる/に かく よ/を/はなるる/さま/に/ものし/たまへ/ば いと/あはれ/に/くちをしう/なむ いのち/ながく/て なほ/くらゐ/たかく/など/みなし/たまへ さて/こそ ここのしな/の/かみ/に/も さはり/なく/むまれ/たまは/め このよ/に/すこし/うらみ/のこる/は わろき/わざ/と/なむ/きくなど なみだぐみ/て/のたまふ かたほ/なる/を/だに めのと/やう/の/おもふ/べき/ひと/は あさましう/まほ/に/みなす/もの/を まして いと/おもだたしう なづさひ/つかうまつり/けむ/み/も いたはしう/かたじけなく/おもほゆ/べか/めれ/ば すずろ/に/なみだがち/なり こども/は いと/みぐるし/と/おもひ/て そむき/ぬる/よ/の/さり/がたき/やう/に みづから/ひそみ/ごらんぜ/られ/たまふ/と つきしろひ/めくはす

「近頃病状がおさまりにくくいらっしゃるのが、心配でなりませんでしたが、このように出家の身になっておしまいなのは、とてもかなしく残念なことで。長生きして、もっと位が高くなんるのをお見届けください。その上でこ上品上生(ジョウボンジョウショウ)として極楽浄土に支障なく生まれ変れるでしょう。この世にすこしでも未練が残るのはよくないことだと聞いてますから」などと涙ぐんでおっしゃる。出来のよくない場合でも、乳母のような子を可愛がらずにおれない者は、はた目にみっともないくらい上出来な子だと見なすものなのに、まして相手が光の君となれば、たいそう誇らしい思いで親しくお仕えさせていただいたわが身まで大切でもったいなく思わずにはおれないだろうから、むやみに涙があふれる。実の子たちは、とても見苦しいことだと思い、出家により捨てた世が離れがたくてみずから泣いているのだとご覧になるのではと案じながらつつきあって目配せする。

日ごろ おこたりがたくものせらるるを 安からず嘆きわたりつるに かく 世を離るるさまにものしたまへば いとあはれに口惜しうなむ 命長くて なほ位高くなど見なしたまへ さてこそ 九品の上にも 障りなく生まれたまはめ この世にすこし恨み残るは 悪ろきわざとなむ聞くなど 涙ぐみてのたまふ かたほなるをだに 乳母やうの思ふべき人は あさましうまほに見なすものを まして いと面立たしう なづさひ仕うまつりけむ身も いたはしうかたじけなく思ほゆべかめれば すずろに涙がちなり 子どもは いと見苦しと思ひて 背きぬる世の去りがたきやうに みづからひそみ御覧ぜられたまふと つきしろひ目くはす

大構造と係り受け

古語探訪

日ごろ 04007

近頃。

おこたり 04007

病気が快方に向かう。

かく世を離るるさま 04007

光が見舞いにきてみると尼の姿に変っていたこと。

九品の上 04007

阿弥陀仏の導きにより極楽へ生まれ変わる九つの階級があるうちの最高のもの。

かたほ 04007

不完全。反対は「まほ」。

思ふべき 04007

かわいがらずにおれない。

あさましう 04007

人があさましく思うくらい。

面立たしう 04007

誇らしい。

なづさひ 04007

馴れ親しむ。

涙がち 04007

「がち」はばかり。

ご覧ぜられたまふ 04007

光に泣きべそを見られること。

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