君もかくうらなくた 夕顔04章13

2021-04-21

原文 読み 意味

君も かくうらなくたゆめてはひ隠れなば いづこをはかりとか 我も尋ねむ かりそめの隠れ処と はた見ゆめれば いづ方にもいづ方にも 移ろひゆかむ日を いつとも知らじ と思すに 追ひまどはして なのめに思ひなしつべくは ただかばかりのすさびにても過ぎぬべきことを さらにさて過ぐしてむ と思されず と 人目を思して 隔ておきたまふ夜な夜ななどは いと忍びがたく 苦しきまでおぼえたまへば なほ誰れとなくて 二条院に迎へてむ もし聞こえありて 便なかるべきことなりとも さるべきにこそは 我が心ながら いとかく人にしむことはなきを いかなる契りにかはありけむ など 思ほしよる

04052/難易度:☆☆☆

きみ/も かく/うらなく/たゆめ/て/はひ/かくれ/な/ば いづこ/を/はかり/と/か われ/も/たづね/む かりそめ/の/かくれが/と はた/みゆ/めれ/ば いづかた/に/も/いづかた/に/も うつろひ/ゆか/む/ひ/を いつ/と/も/しら/じ と/おぼす/に おひ/まどはし/て なのめ/に/おもひ/なし/つ/べく/は ただ/かばかり/の/すさび/にて/も/すぎ/ぬ/べき/こと/を さらに/さて/すぐし/て/む と/おぼさ/れ/ず/と ひとめ/を/おぼし/て へだて/おき/たまふ/よなよな/など/は いと/しのび/がたく くるしき/まで/おぼエ/たまへ/ば なほ/たれ/と/なく/て/にでう-の-ゐん/に/むかへ/て/む もし/きこエ/あり/て/びんなかる/べき/こと/なり/とも さるべき/に/こそ/は わが/こころ/ながら いと/かく/ひと/に/しむ/こと/は/なき/を いかなる/ちぎり/に/か/は/あり/けむ など/おもほし/よる

君にしても、女がこのように心に何の隠し立てなく安心させておいてこっそり姿を隠してしまったならば、どこを当て所として尋ね出せばよいのか、どうもここは仮りの隠れ家らしく見えるからは、どこへなりとも移って行くであろう、その日をいつとも知りようがないと心配するにつけ、追うにも行方が知れず困惑した際、たいした玉でもなかったと思える女であれば、ただこのくらいの遊びということでもすませてしまえるものだが、到底そんな風に忘れていられようとはお思いになれなくて、人目を気にされお通いの途絶えた夜な夜ななどは、本当に忍び難く苦しいくらい恋しくなられたので、やはり誰ともあかさずに二条院に迎えよう、もし人の耳に入り、都合のよくない事態であっても、そうなるよりないからは、わが心ながら、まったくこんな風に人に執着することなんかないのに、どのような前世の縁だったのかと、そんなことまでお考えになる。

君も かくうらなくたゆめてはひ隠れなば いづこをはかりとか 我も尋ねむ かりそめの隠れ処と はた見ゆめれば いづ方にもいづ方にも 移ろひゆかむ日を いつとも知らじ と思すに 追ひまどはして なのめに思ひなしつべくは ただかばかりのすさびにても過ぎぬべきことを さらにさて過ぐしてむ と思されず と 人目を思して 隔ておきたまふ夜な夜ななどは いと忍びがたく 苦しきまでおぼえたまへば なほ誰れとなくて 二条院に迎へてむ もし聞こえありて 便なかるべきことなりとも さるべきにこそは 我が心ながら いとかく人にしむことはなきを いかなる契りにかはありけむ など 思ほしよる

大構造と係り受け

古語探訪

君も 04052

「思すに」にかかる。夜な夜な通ってくる相手が誰ともわからず夕顔が不安であったように光も不安であった、の意味。ただし、夕顔の不安が、相手が変化のものではないかという恐怖心であったのに対して、光の場合は相手がいなくなるのではないかという不安であり、その内容が違う。数回前あたりから、光と夕顔と交互にカメラを切り替え、「も」を媒介に(「女も」「女方も」「男も」)、接点を微妙にずらしながらも、それぞれの内面を描き出す手腕は、小説のテクニックとしても読みどころである。「たゆめ」は他動詞。相手を油断させる。

はかり 04052

目当ての意味であるが、手負いの動物が逃げてゆく際、血を点々としたたらせてゆくが、この血を目当てに追うという具体的なイメージが万葉の昔よりある。平安期の女流文学者にどこまで生々しいイメージを結ぶ語であったかはわからないが、言語感覚に特別秀でていた紫式部には、そうした古代的な言語イメージを見据えつつ使用したのではないかと想像する。

かりそめの隠れ処 04052

光が通出だした現在住んでいる場所のこと。

はた 04052

ちょうど、おりしもなど、二つの事柄が出会った時の感動・感慨を強調する。この場合は、行く先がわからないことと、今の家が仮住まいであるということ。その二つのことがぶつかった時に、「はた」という主観的な言葉が口をつくのである。二つのことがぶつかるので、また(also)の意味と混同されているが、または事実を単に列挙するのみで、そこに感慨はない。はたには常に気持ちがこもっていると考えてよい。

追ひまどはして 04052

追いかけてみるもののそれを取り逃すことで、自分の気持ちを動揺させる意味。

なのめ 04052

いい加減に。

さるべき 04052

そうなるのが必然であるの意味。

我が心ながら 04052

「いかなる契りにかはありけん」にかかる。

いとかく人にしむことはなきを 04052

挿入句。

思ほしよる 04052

思い寄るの意味だが、恋愛のことから、前世の縁についてまで考えが及んだということ。

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