ややためらひてここ 夕顔08章03

2021-04-23

原文 読み 意味

ややためらひて ここに いとあやしきことのあるを あさましと言ふにもあまりてなむある かかるとみの事には 誦経などをこそはすなれとて その事どももせさせむ 願なども立てさせむとて 阿闍梨ものせよ と言ひつるは とのたまふに 昨日 山へまかり上りにけり まづ いとめづらかなることにもはべるかな かねて 例ならず御心地ものせさせたまふことやはべりつらむ さることもなかりつ とて 泣きたまふさま いとをかしげにらうたく 見たてまつる人もいと悲しくて おのれもよよと泣きぬ

04100/難易度:☆☆☆

やや/ためらひ/て ここ/に いと/あやしき/こと/の/ある/を あさまし/と/いふ/に/も/あまり/て/なむ/ある かかる/とみ/の/こと/に/は ずきやう/など/を/こそ/は/す/なれ/とて その/こと-ども/も/せ/させ/む ぐわん/など/も/たて/させ/む/とて あざり/ものせ/よ と/いひ/つる/は と/のたまふ/に きのふ やま/へ/まかり/のぼり/に/けり まづ いと/めづらか/なる/こと/に/も/はべる/かな かねて れい/なら/ず/みここち/ものせ/させ/たまふ/こと/や/はべり/つ/らむ さる/こと/も/なかり/つ とて なき/たまふ/さま いと/をかしげ/に/らうたく み/たてまつる/ひと/も/いと/かなしく/て おのれ/も/よよ/と/なき/ぬ

少し心を静めてから、「ここに、はなはだ奇怪(キッカイ)な事件が出来(シュッタイ)したのだが、あまりのことと表するにもあまりある出来事で。こうした火急の事態には、読経なんどをこそするものだということなので、そうした事もさせたいし、祈願なども立てさせたいしで、阿闍梨に来ていただくようにと、言っておいたが」とおただしになると、「きのう叡山へ登ってしまいました。それにしても、何ともはや不可思議な出来事でございますな。以前より、いつにないほどご気分がよくないというようなことがございましたのでしょうか」「そうした風でもなかった」と、お泣きになるご様子は、とても婉(ウツク)しく痛々しい感じで、お見受けする惟光までも、ひどく悲しい気になり、おいおいともらい泣きした。

ややためらひて ここに いとあやしきことのあるを あさましと言ふにもあまりてなむある かかるとみの事には 誦経などをこそはすなれとて その事どももせさせむ 願なども立てさせむとて 阿闍梨ものせよ と言ひつるは とのたまふに 昨日 山へまかり上りにけり まづ いとめづらかなることにもはべるかな かねて 例ならず御心地ものせさせたまふことやはべりつらむ さることもなかりつ とて 泣きたまふさま いとをかしげにらうたく 見たてまつる人もいと悲しくて おのれもよよと泣きぬ

大構造と係り受け

古語探訪

ためらひ 04100

一呼吸おいて気持ちを静める様子。躊躇することではない。

あさまし 04100

驚きあきれて言葉にならない気持ち。

とみの事 04100

急を要する事態。

すなれ 04100

「なれ」は伝聞。

言ひつるは 04100

直訳すれば「言っておいたが」となる。どうして阿闍梨を連れてこないのだという詰問。それに対する答えが「昨日、山へまかり登りにけり」である。

山 04100

比叡山の延暦寺。

まかり 04100

光の影響力の及ぶ惟光の母のもとから影響力外にという感覚がはたらいているのだろう。面白いケースだ。

まづ 04100

光の詰問よりも、事態の深刻さに気持ちが向いていることを示す言葉。それはともかく、何と言っても、という感じ。

心地 04100

良し悪しが明示されない場合は、一般に悪い意味で使用される。この語が使用される文脈が、平生でない気分(気分が悪いとか、気分がよくなってきたなど)の時に、この語が使用されることから、自然とそうなる。

はべりつらむ 04100

「はべり」「つ」「らん」の合成。「らん」は確認ができない推量。

らうたく 04100

守ってやりたいようなか弱さ。

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