陸奥紙の厚肥えたる 末摘花09章05
原文 読み 意味
陸奥紙の厚肥えたるに 匂ひばかりは深うしめたまへり いとよう書きおほせたり 歌も
唐衣君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつつのみ
心得ずうちかたぶきたまへるに 包みに 衣筥の重りかに古代なるうち置きて おし出でたり
06135/難易度:☆☆☆
みちのくにがみ/の/あつごエ/たる/に にほひ/ばかり/は/ふかう/しめ/たまへ/り いと/よう/かき/おほせ/たり うた/も
からころも/きみ/が/こころ/の/つらけれ/ば/たもと/は/かく/ぞ/そぼち/つつ/のみ
こころえ/ず/うち-かたぶき/たまへ/る/に つつみ/に ころもばこ/の/おもりか/に/こたい/なる/うち-おき/て おし-いで/たり
陸奥国紙の分厚いのに、香りだけは深く焚きしめてある。とてもよく書き上げてある。歌まであり、
《からころも りっぱなあなたの心がつらいので たもとはこのようにぬれそぼってばかりです》
真意がのみこめず首をかしげておいでのところに、包みの布に衣装箱の重そうで古風なのを、取り出して押し出す。
陸奥紙の厚肥えたるに 匂ひばかりは深うしめたまへり いとよう書きおほせたり 歌も
唐衣君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつつのみ
心得ずうちかたぶきたまへるに 包みに 衣筥の重りかに古代なるうち置きて おし出でたり
大構造と係り受け
古語探訪
陸奥紙 06135
厚手の紙で、薄いものを洗練したものとして好む恋文にはふさわしくない。
いとよう書きおほせたり 06135
このように恋文にふさわしくない無趣味な紙に書きおおせたものだとの嫌み。
歌も 06135
「も」は、歌までもついているという皮肉。
唐衣 06135
「着る」にかかる枕詞だが、ここのでは、「君」の「き」にかかっている。唐衣は中国渡りの衣装で立派ではあるが、しっくりと身に合うものではないため、そうした気持ちを反映させる歌に使われる言葉。この歌全体は、雪の朝に光の口ずさんだ歌「降りにける頭の雪を見る人も劣らず濡らす朝の袖かな」に対する返しとなっている。
心得ず 06135
「君が心のつらければ」とあるのに対して、そのようにつらい思いをさせている反省がないために、光は首をかしげているのである。諸注にあるような「からころも」の意味がわからないというような表面的なことは問題にはならない。ここで「心得ず」とあれば、歌の意味以外なく、それは、あなたが冷たいから悲しいということであって、からころもなどの表面的な言葉の使い方などの枝葉はどうだってよいことなのだ。