正身のものは言はで 末摘花06章22
原文 読み 意味
正身の ものは言はで 思しうづもれたまふらむさま 思ひやりたまふも いとほしければ いとまなきほどぞや わりなし と うち嘆いたまひて もの思ひ知らぬやうなる心ざまを 懲らさむと思ふぞかし と ほほ笑みたまへる 若ううつくしげなれば
06093/難易度:☆☆☆
さうじみ/の もの/は/いは/で おぼし/うづもれ/たまふ/らむ/さま おもひやり/たまふ/も いとほしけれ/ば いとま/なき/ほど/ぞ/や わりなし/と うち-なげい/たまひ/て ものおもひ/しら/ぬ/やう/なる/こころざま/を こらさ/む/と/おもふ/ぞ/かし と ほほゑみ/たまへ/る わかう/うつくしげ/なれ/ば
恋愛の相手である当人が、言うべきことを言わず、思い沈んでいらっしゃるであろうご様子を、想像してごらんになるにつけても、申し訳なければ、「空いた時間が取れないこの頃で、どうにもな」と、うち嘆きになり、「人を思いやる気持ちを知らないらしいご気性を、懲らしめようと思っているのだ」と、微笑みになる、若くあどけないご様子に、
正身の ものは言はで 思しうづもれたまふらむさま 思ひやりたまふも いとほしければ いとまなきほどぞや わりなし と うち嘆いたまひて もの思ひ知らぬやうなる心ざまを 懲らさむと思ふぞかし と ほほ笑みたまへる 若ううつくしげなれば
大構造と係り受け
古語探訪
正身 06093
末摘花。
ものは言はで 06093
「もの」は大事なこと。つまり、結婚間もなく男に見限られた女として言うべきこと、権利、恨み言などである。ものも言わないの意味ではない。はっきりと相手に言うべきことを言わないことである。「もの思ひ知らぬ」の「もの」も大事なことの意味。
わりなし 06093
状況が手にあまる、仕方がないとの意味。
もの思ひ知らぬ 06093
「もの」も大事なことの意味、ただし、「もの思ひ知らぬ」全体で決まり文句となっており、(人として一番大事な)恋愛感情、恋愛における心の機微、相手を思いやる気持ち、愛情などの具体的な意味をになう。
ほほ笑みたまへる 06093
光は何ゆえ微笑んだのか。命婦が末摘花との間を取り持つ仲介者であれば、とてもこの状況で笑いかけることはできないし、ましてこちらも微笑み返す気持ちにはならないであろう。このあたり、二人に特殊な感情があると読むことに無理がない気がするがどうであろう。