大臣夜に入りてまか 末摘花06章14
原文 読み 意味
大臣 夜に入りてまかでたまふに 引かれたてまつりて 大殿におはしましぬ 行幸のことを興ありと思ほして 君たち集りて のたまひ おのおの舞ども習ひたまふを そのころのことにて過ぎゆく
06085/難易度:☆☆☆
おとど よる/に/いり/て/まかで/たまふ/に ひか/れ/たてまつり/て おほいどの/に/おはしまし/ぬ ぎやうがう/の/こと/を/きよう/あり/と/おもほし/て きみ-たち/あつまり/て のたまひ おのおの/まひ-ども/ならひ/たまふ/を その-ころ/の/こと/にて/すぎ/ゆく
左大臣が夜になって宮中より退出なさるのに、つれられ申して君は大殿においでになった。行幸の行事が楽しみだとお思いになって、若い公達が集まり、おしゃべりし、それぞれ舞などお習いになるのを、その頃の興味の中心として時は過ぎてゆく。
大臣 夜に入りてまかでたまふに 引かれたてまつりて 大殿におはしましぬ 行幸のことを興ありと思ほして 君たち集りて のたまひ おのおの舞ども習ひたまふを そのころのことにて過ぎゆく
大構造と係り受け
古語探訪
大臣 06085
光の結婚相手である葵の父の左大臣。
大殿 06085
左大臣邸。
行幸のこと 06085
「行幸」は帝(すなわち今上天皇、いわゆる桐壺帝)が朱雀院におでかけになること。「行幸のこと」の「こと」は、行幸に関係する諸行事の意味。形式名詞としての「こと」はこの時代まだ未発達と考える方がよい。
思ほして 06085
主語は、後の「君たち」(大臣の息子たちやその友人などの貴公子たち)。
そのころのこと 06085
「こと」について、仕事だ日課だなどと訳されているが、理由なくいい加減に訳している感じがする。「ことのついでに」などの「こと」に同じ。「ことのついでに」は、何かのついでの意味ではなく、大事のついでにの意味。現在「ことのついでに」というと、「ついでに」に重点が置かれ、何かのついでにとの意味になるが、本来は「ことあるついでに」の意味である。「ことあれば」は、火急の大事があればの意味である。これも何かあればと現在は言うが、その何かは重大なできごとの意味である。従って、「そのころのこと」とは、その頃の重大事、その頃一番大切にしていた対象であるとの意味である。つまり、普段なら一番の興味は女性であるのに、いまは特別に興味の対象が別にあるとの意味だ。