女君の御乳母子侍従 末摘花05章16
原文 読み 意味
女君の御乳母子 侍従とて はやりかなる若人 いと心もとなう かたはらいたし と思ひて さし寄りて 聞こゆ
鐘つきてとぢめむことはさすがにて答へまうきぞかつはあやなき
いと若びたる声の ことに重りかならぬを 人伝てにはあらぬやうに聞こえなせば
06064/難易度:☆☆☆
をむなぎみ/の/おほむ-めのとご じじゆう/とて はやりか/なる/わかうど いと/こころもとなう かたはらいたし と/おもひ/て さし-より/て きこゆ
かね/つき/て/とぢめ/む/こと/は/さすが/に/て/こたへ/まうき/ぞ/かつ/は/あやなき
いと/わかび/たる/こゑ/の こと/に/おもりか/なら/ぬ/を ひとづて/に/は/あら/ぬ/やう/に/きこエ/なせ/ば
女君の乳母の子の、侍従という、口出し好きの若い女房が、何ともじれったく見るに見かねる思いで、女君の側にさし寄り申し上げる。
《鐘をついてこれまでとしまいにするのはさすがにいたしかねますものの かと言って応じるには抵抗があり 我ながら解しかねる思いです》
とても若々しい声で、特別重々しい感じでもない調子で、姫ご自身であるかのように申し上げたところ、
女君の御乳母子 侍従とて はやりかなる若人 いと心もとなう かたはらいたし と思ひて さし寄りて 聞こゆ
鐘つきてとぢめむことはさすがにて答へまうきぞかつはあやなき
いと若びたる声の ことに重りかならぬを 人伝てにはあらぬやうに聞こえなせば
大構造と係り受け
古語探訪
鐘つきて 06064
具体手に何を示すかわからないが、文脈上、終わりの合図としての鐘であろうと想像される。
とぢめむ 06064
終結させること。
さすがにて 06064
さすがにできないの意味。
答へまうき 06064
この場合、はっきりと応じる返事をすること。気持ちの上では、断ることはできないのだから、応じることをよしとしているが、決心がまだしかねている状態だとの意味。
かつは 06064
二つのことが同時的に、はっきり断れないのに受け入れることもできない状態。
あやなき 06064
道理に合わないこと。矛盾があること。
ことに重りかならぬ 06064
宮の身分ながら重々しさがさほどないこと。
人伝てにはあらぬやうに 06064
侍従が女君の歌を代わりに詠んだとか、女君が直接男性と話ができないから仲立ちとして間に入ったとかではなしに、直接女君が光に話しをしたかのようにとの意味。
なせ 06064
そうでないことをそうであるかのようにすること。