なほ世にある人のあ 末摘花04章04
原文 読み 意味
なほ世にある人のありさまを おほかたなるやうにて聞き集め 耳とどめたまふ癖のつきたまへるを さうざうしき宵居など はかなきついでに さる人こそとばかり聞こえ出でたりしに かくわざとがましうのたまひわたれば なまわづらはしく 女君の御ありさまも 世づかはしく よしめきなどもあらぬを なかなかなる導きに いとほしき事や見えむなむ と思ひけれど 君のかうまめやかにのたまふに 聞き入れざらむも ひがひがしかるべし
06046/難易度:☆☆☆
なほ/よ/に/ある/ひと/の/ありさま/を おほかた/なる/やう/に/て/きき/あつめ みみ/とどめ/たまふ/くせ/の/つき/たまへ/る/を さうざうしき/よひゐ/など はかなき/ついで/に さる/ひと/こそ/と/ばかり/きこエ/いで/たり/し/に かく/わざとがましう/のたまひ/わたれ/ば なま-わづらはしく をむなぎみ/の/おほむ-ありさま/も よづかはしく よしめき/など/も/あら/ぬ/を なかなか/なる/みちびき/に いとほしき/こと/や/みエ/む/なむ と/おもひ/けれ/ど きみ/の/かう/まめやか/に/のたまふ/に きき/いれ/ざら/む/も ひがひがしかる/べし
夕顔のことがあったのに、それでもやはり、市中にある女性の様子を、特別な関心ではないようにして聞き集め、耳をお留めになる癖がついていらっしゃるので、さびしい夜明かしなど、ちょっとした折りに、こういう人がいるとだけ申し上げたところ、こんなにもあてつけなくらい催促なさるので、ひどく面倒であり、女君のご様子にしても、世慣れた風で風趣を解す様子もないので、なまじ手引きした結果、もうしわけない結末が見えるのも、と思いはするが、君がこうまで真剣におっしゃるので、聞き入れないのも、ひどいひね者にとられよう。
なほ世にある人のありさまを おほかたなるやうにて聞き集め 耳とどめたまふ癖のつきたまへるを さうざうしき宵居など はかなきついでに さる人こそとばかり聞こえ出でたりしに かくわざとがましうのたまひわたれば なまわづらはしく 女君の御ありさまも 世づかはしく よしめきなどもあらぬを なかなかなる導きに いとほしき事や見えむなむ と思ひけれど 君のかうまめやかにのたまふに 聞き入れざらむも ひがひがしかるべし
大構造と係り受け
古語探訪
なほ 06046
ここのみでは、何に対して「なほ」と言っているのか、不明である。しかし、ここが、『末摘花』の冒頭に近い部分、「いかでことごとしきおぼえはなく、いたらうたげになむ人のつつましきことなからむ、見つけてしがなと懲りずまに思しわたれば、すこしゆゑづきて聞こゆるわたりは、御耳とどめたまはぬ隈なきに……」と軌を一にしていることがわかれば、「懲りずま」、すなわち、夕顔の死にあってもなお、市中の女性の噂に耳を向けている光の姿が浮かび上がってくる。
おほかたなるやうにて 06046
興味をもっているという顔はせずということ。関心がないように見せかけているのである。
さうざうしき宵居などはかなきついでに 06046
前にも注したが、おそらく、命婦と夜を供にしていたその睦言のついでにの意味であろうと思う。
わざとがましうのたまひわたれば 06046
つとめて言うこと、つまり、聞こえよがしにいうこと。光の女のひとりとして、命婦にすれば、なぜわたしに仲に立てと言うのかと非難したい気持ちが働いている。それが直截にあらわれているのが、「なまわづらはし」である。末摘花側に立つ者であれば、どうかして光に接触させたいと積極的に働くはずであるが、末摘花のもとに出入りしていながら、この命婦は、仲に立つのをいとっている(これも、命婦が光の女ではないかと、疑う理由でもある)。
ひがひがしかるべし 06046
ひねくれている。性格としてひねくれているという意味だけでなく、平安人の教養・生活スタイルとして、オープンな恋愛観にはずれる、開かれない女、後れた女というニュアンスもあるのだろう。出だしより、ここまでを命婦の心内に則した語りと考える。