君は深うしも思はぬ 末摘花03章10
原文 読み 意味
君は 深うしも思はぬことの かう情けなきを すさまじく思ひなりたまひにしかど かうこの中将の言ひありきけるを 言多く言ひなれたらむ方にぞ靡かむかし したり顔にて もとのことを思ひ放ちたらむけしきこそ 憂はしかるべけれ と思して 命婦をまめやかに語らひたまふ
06038/難易度:☆☆☆
きみ/は ふかう/しも/おもは/ぬ/こと/の かう/なさけなき/を すさまじく/おもひ/なり/たまひ/に/しか/ど かう/この/ちゆうじやう/の/いひ/ありき/ける/を こと/おほく/いひ/なれ/たら/む/かた/に/ぞ/なびか/む/かし したりがほ/にて もと/の/こと/を/おもひはなち/たら/む/けしき/こそ うれはしかる/べけれ と/おぼし/て みやうぶ/を/まめやか/に/かたらひ/たまふ
君は、もともと深くも思わない恋愛が、かうも冷たくされては、興がさめる気持ちになってしまわれたが、このようにこの中将がやたらと言い寄っているので、言葉多く口達者な方になびくかもしれない。得意顔で、もともとの事情など関係のない風にされては、たまらない気持ちになろう」とお思いになって、命婦に対し真剣に相談をもちかける。
君は 深うしも思はぬことの かう情けなきを すさまじく思ひなりたまひにしかど かうこの中将の言ひありきけるを 言多く言ひなれたらむ方にぞ靡かむかし したり顔にて もとのことを思ひ放ちたらむけしきこそ 憂はしかるべけれ と思して 命婦をまめやかに語らひたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
深うしも思はぬことの 06038
末摘花に対する光の愛情の薄さ。これが主語で、「すさまじく思ひなりたまふ」が、これに対する述語。
かう情けなきを 06038
「かう」は具体的には、光が送る恋文にいっさい返書がないこと。貴公子の光にとって、これは屈辱でさえある。しかし、このままほっておいたのでは頭中将に奪われ、きっと笑いものにされるだろうという敵対心から、末摘花を本気で落とそうと、末摘花と親しくしている命婦に真剣に相談を持ちかけるのである。
すさまじく 06038
愛情がさめたり、興味を失うこと。もともと愛情が少ないのに、まして興味を失うのである。その理由が、「かう情けなきを」で、相手がこうまで冷たいから。
言ひありきける 06038
しきりに言い寄る。「~ありく」は、たえず~するという連語。
もとのこと 06038
もともと手をつけたのは自分が最初であり、頭中将は自分のあとをつけてきて、たまたま末摘花のことを知っただけであるという、もとの状況を示す。
思ひ放ち 06038
無視する。