今様色のえゆるすま 末摘花09章09
原文 読み 意味
今様色の えゆるすまじく艶なう古めきたる直衣の 裏表ひとしうこまやかなる いとなほなほしう つまづまぞ見えたる あさまし と思すに この文をひろげながら 端に手習ひすさびたまふを 側目に見れば
06139/難易度:☆☆☆
いまやういろ/の え/ゆるす/まじく/つや/なう/ふるめき/たる/なほし/の うら/うへ/ひとしう/こまやか/なる いと/なほなほしう つま/づま/ぞ/みエ/たる あさまし/と/おぼす/に この/ふみ/を/ひろげ/ながら はし/に/てならひ/すさび/たまふ/を そばめ/に/みれ/ば
今風の許し色が許し難いほど艶なく古ぼけてしまった直衣で、裏も表も一様に濃く、しごくありふれたもので、その端がところどころ見えている。あきれたものだとお感じになって、この手紙をひろげながら、その端にいたずら書きをなさるのを、命婦が横合いからのぞいてみると、
今様色の えゆるすまじく艶なう古めきたる直衣の 裏表ひとしうこまやかなる いとなほなほしう つまづまぞ見えたる あさまし と思すに この文をひろげながら 端に手習ひすさびたまふを 側目に見れば
大構造と係り受け
古語探訪
今様色 06139
薄紅色とも濃い紅梅色とも考えられている。確かなことは、禁色である緋色(濃い紅色)に対して、許された色が今様色である。実際の色がどんな色であったかは、歴史的な考証を必要とするであろうが、この文脈より読み取れる限りでは禁色に近い濃い色であったに違いない。それは、今様色(ゆるし色)なのに、「えゆるすまじく」であり、裏表が「こまやかなる」状態すなわち色が濃いと書かれており、さらに、比喩的だが末摘花(紅花)の色移りした色となっているからである。語釈をすすめながら、この点は後述したい。
えゆるすまじく 06139
今様色が許し色(聴色)であるのにという冗談。
裏表ひとしうこまやかなる 06139
服の裏表は色を変えるものなのに同一で「こまやか」つまり色が濃いものを使っている。
なほなほしう 06139
平凡。
つまづま 06139
端々。
あさまし 06139
驚きあきれた様。
端に手習ひすさびたまふを側目に見れば 06139
「端に手習ひすさびたまふを」を読んだかぎりでは、先のつづきから、その主体は末摘花と読めるが、「側めに見れば」を読んだ段階で、ここには敬語がないので、「見る」の主体は命婦となり、「手習ひすさびたまふ」の主語は末摘花でなく、光であったと解釈を入れ替えることになる。このように、後まで読んではじめて解釈が決定される場合があることに注意したい(より精確には、かかる先を読みおわるまで、すべての解釈は決定できない)。