あやしきことのはべ 末摘花09章03
原文 読み 意味
あやしきことのはべるを 聞こえさせざらむもひがひがしう 思ひたまへわづらひてと ほほ笑みて聞こえやらぬを 何ざまのことぞ 我にはつつむことあらじとなむ思ふ とのたまへば いかがは みづからの愁へは かしこくとも まづこそは これは いと聞こえさせにくくなむ と いたう言籠めたれば 例の 艶なる と憎みたまふ
06133/難易度:☆☆☆
あやしき/こと/の/はべる/を きこエ/させ/ざら/む/も/ひがひがしう おもひ/たまへ/わづらひ/て と ほほゑみ/て/きこエ/やら/ぬ/を なに/ざま/の/こと/ぞ われ/に/は/つつむ/こと/あら/じ/と なむ/おもふ と/のたまへ/ば いかがは みづから/の/うれへ/は かしこく/とも まづ/こそ/は これ/は いと/きこエ/させ/にくく/なむ と いたう/こと/こめ/たれ/ば れい/の えん/なる と/にくみ/たまふ
「一風変わったできごとがございますが、お耳にお入れ申さないのも心がねじけていまいかと思い悩まれまして」と、ニヤニヤしたまま、申し上げようとしないのを、「どうした用向きだ、わたしには遠慮はいるまいと、そう思ってきたが」とおっしゃると、「どうしましょう。わたしごとの愁訴なら、恐れ多くとも、まっさきに。でも、こちらはとてもお耳にお入れ申しにくくて」と、ひどく口ごもるので、例の思わせぶりだとお恨みになる。
あやしきことのはべるを 聞こえさせざらむもひがひがしう 思ひたまへわづらひてと ほほ笑みて聞こえやらぬを 何ざまのことぞ 我にはつつむことあらじとなむ思ふ とのたまへば いかがは みづからの愁へは かしこくとも まづこそは これは いと聞こえさせにくくなむ と いたう言籠めたれば 例の 艶なる と憎みたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
あやしきことのはべるを 06133
へたな和歌や変な贈り物に対して予防線をはっていると考えられているが、命婦は、光の恋愛後日談が滑稽なものとなったこの現実を、一種面白がっているのではないだろうか。もともと、命婦は好んで末摘花を紹介したのではないし、ここでのもっと回った命婦の態度は、女として焼いているのであり、それゆえ、うまくいかない末摘花との関係を楽しんでいると考えるのが自然なのではないか。
ほほ笑み 06133
苦笑いではなく、光の失敗をにやついて笑っている。
いかがは 06133
「いかがはせむ」の略。遠慮はいらないとの光の勧めを、どうしようかと引き延ばしている。「いかがつつみはべらむ(どうして遠慮などしましょう)」という解釈は、「例の艶なる」と矛盾する。
みづからの愁へ 06133
だいたいここで、自分の訴えなら遠慮なく言うがということを言う場面ではない。命婦は、末摘花からの贈り物をネタに光と話がしたいのであり、嫌みをしてやりたいのだ。
聞こえさせ 06133
「させ」は使役だが、人を介して光に告げるのではなく、使役を使った謙譲表現である。光という貴い人の耳に無理に話を入れるという感じ。
例の艶なる 06133
以前にも「あまり色めいたり」とあった。命婦は光に惚れているのだ。