なつかしき色とも 末摘花09章10

2021-05-14

原文 読み 意味

 なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖に触れけむ
色濃き花と見しかども など 書きけがしたまふ

06140/難易度:☆☆☆

 なつかしき/いろ/と/も/なし/に/なに/に/この/すゑつむはな/を/そで/に/ふれ/けむ
いろ/こき/はな/と/み/しか/ども など かき/けがし/たまふ

《心引かれる色でもないのに どうしてこの末摘花という紅花を この袖で触ったりしたのだろうか》
禁色である色の濃い花だと思っていたのに」などと書きよごしになる。

 なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖に触れけむ
色濃き花と見しかども など 書きけがしたまふ

大構造と係り受け

古語探訪

なつかしき 06140

心がなついてしまう、つい慕いたくなるの意味。

すゑつむ花 06140

紅花のこと。末摘花は宮家の血を引き、本来的には、一生独身であることが望まれる身分である。鼻が赤いから紅花である末摘花と名付けられたとされるが、それよりも本来的には、禁色に似た色としての末摘花なのである。このことは後述する。

すゑつむ花を袖に触れけむ 06140

諸注は、(どうして)末摘花の袖を触れたのだろうかと解釈しているが、この歌の主旨をまったくはき違えている。自分へのつけとどけの直衣を茶化しているという大前提を理解していないのだ。「すゑつむ花を袖に触れ」るとは、むろん、末摘花と契りを結ぶことだが、一義的には、光が自分の袖を末摘花(紅花)に触れることで赤く色変わりしてしまったことを指すのであり、この状況から解釈するなら、好みの品ではない表裏同色の直衣を光は受け取ることにしたことを、末摘花を袖に触れて、色が変わったと表現しているのである。従って、歌の真意は、契りを結んだことの後悔と、また、このような色の直衣を受け取ることになった後悔である。

色濃き花と見しかども 06140

定家の奥入より「紅を色濃き花と見しかごも人をあくだにうつろひにけり」(紅は紅花のことで、紅花は本来色の濃い花だと思っていたが、人を満足させるどころか、灰汁にあたって色が変わったように心変わりしてしまった)との意味を「河海抄」は行うが、色変わりが重要なのではなく、遠目には色濃き花で禁色であると思っていたのに、近づけば紅花で許されたものだったとの意味、つまり、血筋としては高貴でありながら、実質においては教養も魅力もない女であったということ。

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