何ごとも言はれたま 末摘花08章13
原文 読み 意味
何ごとも言はれたまはず 我さへ口閉ぢたる心地したまへど 例のしじまも心みむと とかう聞こえたまふに いたう恥ぢらひて 口おほひしたまへるさへ ひなび古めかしう ことことしく 儀式官の練り出でたる臂もちおぼえて さすがにうち笑みたまへるけしき はしたなうすずろびたり
06119/難易度:☆☆☆
なにごと/も/いは/れ/たまは/ず われ/さへ/くち/とぢ/たる/ここち/し/たまへ/ど れい/の/しじま/も/こころみ/む/と とかう/きこエ/たまふ/に いたう/はぢらひ/て くち/おほひ/し/たまへ/る/さへ ひなび/ふるめかしう ことごとしく ぎしきくわん/の/ねり/いで/たる/ひぢもち/おぼエ/て さすがに/うち-ゑみ/たまへ/る/けしき はしたなう/すずろび/たり
姫君は何のお話もなさらず、君はこちらまで口の開かぬ気分になられるが、あのだんまりにも挑もうと、あれこれ話しかけになるが、ひどく恥じらって、口もとをお隠しになるお姿さえが、垢抜けせず、古めかしいほど大げさで、儀式官が練り出す際に張り出す肘が思い出され、口は開けずともさすがに微笑みでご返事になるご様子が、不似合いなほど取って付けた感じである。
何ごとも言はれたまはず 我さへ口閉ぢたる心地したまへど 例のしじまも心みむと とかう聞こえたまふに いたう恥ぢらひて 口おほひしたまへるさへ ひなび古めかしう ことことしく 儀式官の練り出でたる臂もちおぼえて さすがにうち笑みたまへるけしき はしたなうすずろびたり
大構造と係り受け
古語探訪
何ごとも言はれたまはず 06119
主語は、光と考えられているが、間違いであろう。姫が何も言わないという状況の中で、「我さへ」(自分まで)口が閉じてしまう気持ちになるが、相手のだんまりに挑戦しようとして、あれこれ話しかけるのである。
例のしじまも心みむ 06119
光の歌「いくそたび君がしじまに負けぬらんものな言ひそと言はぬたのみに」を受け、これに挑戦するのである。
口おほひしたまへる 06119
肘をはって袖口か扇で口元を隠している姿。
ひなび 06119
ソフィスティケートされていずにものがたいのである。
古めかしうことことしく 06119
普通、「……ひなび、古めかしう、ことごとしく」とされている。「古めかしう」という音便形は、中止法ではなく、連用法だろうから、古めかしいほどことごとしくの意味ととるのがよい。
さすがにうち笑みたまへる 06119
光があれこれ話しかけるものだから、さすがに黙ってもおれず、つい微笑みをもって返事にかえるのである。
すずろびたり 06119
中身がないこと。表面で笑うだけで、実がないのである。