雨降り出でてところ 末摘花06章06
原文 読み 意味
雨降り出でて ところせくもあるに 笠宿りせむと はた 思されずやありけむ かしこには 待つほど過ぎて 命婦も いといとほしき御さまかな と 心憂く思ひけり
06077/難易度:☆☆☆
あめ/ふり/いで/て ところせく/も/ある/に かさやどり/せ/む/と はた おぼさ/れ/ず/や/あり/けむ かしこ/に/は まつ/ほど/すぎ/て みやうぶ/も いと/いとほしき/おほむ-さま/かな/と こころうく/おもひ/けり
雨が降り出したのに、おっくうでもある上は、今夜笠宿りしようとは、やはりお考えではなかったのであろうか。むこうでは、待てども後朝の歌の来る時刻も過ぎて、命婦も、とても申し訳ないことになったなと、後悔に胸が痛むのだった。
雨降り出でて ところせくもあるに 笠宿りせむと はた 思されずやありけむ かしこには 待つほど過ぎて 命婦も いといとほしき御さまかな と 心憂く思ひけり
大構造と係り受け
古語探訪
雨降り出でて 06077
「て」は理由を表し、「ところせくもある」と「笠宿りせむ」の双方にかかるが、前者には悪い理由、後者にはよい理由となっている。
とろこせく 06077
気が重い、動くのがおっくうの意味。雨が降り出したための気分。これが、笠宿りしない理由となっている。
笠宿りせむ 06077
すげない末摘花に対し、「短き心ばへつかはぬものを」(心変わりなどせずいつまでも世話するものを)と命婦に訴え、取次を迫った際、「さやうにをかしき方の御笠りにはえしもや」(そのように風雅な方面での笠宿りに値するだろうか)とすかされたことによる。諸注は、命婦の言葉のみを取り上げるが、それがその言葉が使われた文脈全体、すなわち、光の訴えあるいは誓いとそれに対するすかしの言葉としての笠宿りという文脈全体を受けると取りたい。そこで「笠宿りせむとははた思されずやありけむ」を考える。
はた 06077
表面化されていない真意をさぐりあてる際の表現。後朝の歌を夕方に届けるという真意は、遅くても届けるという誠実さからではなく、行こうと思えば行けるはずなのに、今晩末摘花のもとへは行かぬつもりだなとの話者のすっぱぬき。そして、笠宿りには、先に見たように、一夜の宿りというもともとの意味の他に、二人でなされた会話の結果、心変わりをしないという意味が添えられているのである。心変わりなどしないと言っておきながら、一夜しか保たないのかという話者の非難がここには籠る。この点に関しては、この段の最後でもう一度検討を加えることになる。
けむ 06077
話者による主人公の行動理由を推察する時の表現である。
命婦もいといとほしき 06077
命婦も光を取り次いだ責任を感じていることを表す。