いくそたび君がし 末摘花05章15
原文 読み 意味
いくそたび君がしじまにまけぬらむものな言ひそと言はぬ頼みに
のたまひも捨ててよかし 玉だすき苦し とのたまふ
06063/難易度:☆☆☆
いくそ/たび/きみ/が/しじま/に/まけ/ぬ/らむ/もの/な/いひ/そ/と/いは/ぬ/たのみ/に
のたまひ/も/すて/て/よ/かし たまだすき/くるし と/のたまふ
《これまで幾度あなたの沈黙に わたしは引き下がってきたことでしょう なにも言うなとおっしゃらないのを頼みにしておりましたが》
言葉でもはっきりお見捨てください 玉たすきのような中途半端な状態は苦しいものです」とおっしゃる。
いくそたび君がしじまにまけぬらむものな言ひそと言はぬ頼みに
のたまひも捨ててよかし 玉だすき苦し とのたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
しじま 06063
押し黙ること。
ものな言ひそと言はぬ頼みに 06063
言い寄らないでとはっきり言わないのを頼みにしてきた、つまり、断られないから芽があるなと思って好意を寄せてきたとの意味。
のたまひも 06063
黙っているという態度だけでなく、言葉の上でもはっきり嫌だと言ってほしいの意味。
玉だすき 06063
要するに両肩に交差させて着物の袖を固定させるたすきのことだが、その内包する意味はいろいろと想像される。両肩にかかるとの意味で、二人の相手に気がある意味や、イエスともノーとも取れるどっちつかずの状態であるとか、交差している状態から男女の気持ちがすれ違っている様子を示すとか、宙に浮いた状態ではっきりしないなどである。たすきの意味性はともかく、ここでは脈があるのかないのかはっきりしてほしいということ。古今に「ことならば思はずとやは言ひはてぬなぞ世の中の玉だすきなる」との歌がある。歌意は「どうせなら何とも思っていないとはっきり言い渡してくれたらいいのに、どうして男女の関係は思い通りに運ばないのだろう」ほどの意味。それぞれの思惑があって、それがねじれているためうまくことが進まない状態を言うのであろう。