それこそは世づかぬ 末摘花04章03
原文 読み 意味
それこそは世づかぬ事なれ 物思ひ知るまじきほど 独り身をえ心にまかせぬほどこそ ことわりなれ 何事も思ひしづまりたまへらむ と思ふこそ そこはかとなく つれづれに心細うのみおぼゆるを 同じ心に答へたまはむは 願ひかなふ心地なむすべき 何やかやと 世づける筋ならで その荒れたる簀子にたたずままほしきなり いとうたて心得ぬ心地するを かの御許しなくとも たばかれかし 心苛られし うたてあるもてなしには よもあらじ など 語らひたまふ
06045/難易度:☆☆☆
それ/こそ/は/よづか/ぬ/こと/なれ もの-おもひ/しる/まじき/ほど ひとりみ/を/え/こころ/に/まかせ/ぬ/ほど/こそ ことわり/なれ なにごと/も/おもひ-しづまり/たまへ/ら/む と/おもふ/こそ そこはかとなく つれづれ/に/こころぼそう/のみ/おぼゆる/を おなじ/こころ/に/いらへ/たまは/む/は ねがひ/かなふ/ここち/なむ/す/べき なにやかや/と よづける/すぢ/なら/で その/あれ/たる/すのこ/に/たたずま/まほしき/なり いと/うたて/こころえ/ぬ/ここち/する/を かの/おほむ-ゆるし/なく/と/も たばかれ/かし こころいられ/し うたて/ある/もてなし/に/は よも/あら/じ など かたらひ/たまふ
「それこそ幼稚な有り様なんだ。分別のつかぬ年頃や、ひとりでは思い通りに判断できない年齢なら理解もできるが、何事であれ慎重でおられるらしいと思うからこそこれまでは。こうわけもなく、いつまでも変わりないまま心細く感じているところに、同じ気持ちを返事にこめられたなら、願いがかなう気持ちがするだろう。あれやこれやの色恋沙汰というのではなく、その荒れた簀子へ立たせてほしいのだ。まったく心配なまでに理解できぬ気持ちだから、先方のご許可がなくても何とかしろ。焦って、不届きなふるまいをするつもりなどまさかない」などと話をもちかけになる。
それこそは世づかぬ事なれ 物思ひ知るまじきほど 独り身をえ心にまかせぬほどこそ ことわりなれ 何事も思ひしづまりたまへらむ と思ふこそ そこはかとなく つれづれに心細うのみおぼゆるを 同じ心に答へたまはむは 願ひかなふ心地なむすべき 何やかやと 世づける筋ならで その荒れたる簀子にたたずままほしきなり いとうたて心得ぬ心地するを かの御許しなくとも たばかれかし 心苛られし うたてあるもてなしには よもあらじ など 語らひたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
独り身をえ心にまかせぬほど 06045
親がかりであり自己判断のみで行動がとれない年齢。
何事も思ひしづまりたまへらむと思ふこそ 06045
その後が省略されている。補う言葉は文中にあり、それが「静かに思しつづけ」である。何事でも慎重に考える性格だと思うからこそ、不安になりながらも、あせらずにじっと待ったのである。それが「静かに思しつづけ」の具体的内容である。このじっと待ってきたとの思いが、次の表現を呼び込むのである。
そこはかとなく 06045
「おぼゆる」にかかる。
つれづれに 06045
状況が変化なく長くつづくこと、すなわち、返書がないまま時間がすぎること。
同じ心に答へたまはむ 06045
同じ気持ちになることだが、「つれづれに心細う」思うことではない。それは返書がないから心細かったのであり、末摘花が心細く思う必要がないからである。同じ心とは、光が末摘花に寄せている気持ちと同じ気持ちで、すなわち好意をもっての意味である。
簀子にたたずままほしき 06045
「簀子」は、男がそこに座り、中にはいってよいかと、求愛をする場所。そこに立たせてほしいとは、一歩引いた表現で、それだけに情熱を帯びた表現になっている。