秋のころほひ静かに 末摘花04章01
原文 読み 意味
秋のころほひ 静かに思しつづけて かの砧の音も耳につきて聞きにくかりしさへ 恋しう思し出でらるるままに 常陸宮にはしばしば聞こえたまへど なほおぼつかなうのみあれば 世づかず 心やましう 負けては止まじの御心さへ添ひて 命婦を責めたまふ
06043/難易度:☆☆☆
あき/の/ころほひ しづか/に/おぼし/つづけ/て かの/きぬた/の/おと/も/みみ/に/つき/て/きき/にくかり/し/さへ こひしう/おぼし/いで/らるる/まま/に ひたちのみや/に/は/しばしば/きこエ/たまへ/ど なほ/おぼつかなう/のみ/あれ/ば よづか/ず こころやましう まけ/て/は/やま/じ/の/みこころ/さへ/そひ/て みやうぶ/を/せめ/たまふ
秋の頃、静かに思いをよせつづけ、先の砧の音も耳についてうるさく感じたことさえつい恋しく思い出しになられるままに、常陸の宮にはしばしば便りを寄せられるが、やはり返書なく気のやすまらぬ状況がつづくので、歓心を得られず、つらくてもここまま引き下がりはしまいとの意地まで加わり、命婦に催促なさる。
秋のころほひ 静かに思しつづけて かの砧の音も耳につきて聞きにくかりしさへ 恋しう思し出でらるるままに 常陸宮にはしばしば聞こえたまへど なほおぼつかなうのみあれば 世づかず 心やましう 負けては止まじの御心さへ添ひて 命婦を責めたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
静かに思しつづけて 06043
強引な手に打って出ずに、静かに常陸宮に思いを寄せている状態。
かの砧の音も耳につきて聞きにくかりしさへ 06043
夕顔の家で「あな耳かしがまし」と聞いた砧の音。冬支度として冬物の着物を柔らかく着やすくするために砧で衣服を叩く透明な音が、秋の物寂しさをかき立て、古来、男女を近づけてきたのである。ただし、その音を聞き慣れない光は、間近で聞いた時には、耳うるさく感じたが、それが過去のものとして夕顔の思い出と重なって思い出される時に、その音はまさしく恋心をゆさぶる音となるのだった。なお、夕顔と末摘花は、「ものづつみ」する点で共通する。取り返せない夕顔の思い出が、末摘花へと駆り立てるのである。
世づかず 06043
幼さゆえ、男女の機微を解しない様子。
心やましう 06043
音便があることから、連用中止法と考えず、「負けてはやまじ」の程度を示す副詞用法と考える。
負けては止まじ 06043
頭中将に負けることではなく、冷たい女性の態度に負けてあきらめることで、他にも例のある表現。