中務の君わざと琵琶 末摘花03章04
原文 読み 意味
中務の君 わざと琵琶は弾けど 頭の君心かけたるをもて離れて ただこのたまさかなる御けしきのなつかしきをば え背ききこえぬに おのづから隠れなくて 大宮などもよろしからず思しなりたれば もの思はしく はしたなき心地して すさまじげに寄り臥したり 絶えて見たてまつらぬ所に かけ離れなむも さすがに心細く思ひ乱れたり
06032/難易度:☆☆☆
なかつかさのきみ わざと/びは/は/ひけ/ど とうのきみ/こころかけ/たる/を/もて-はなれ/て ただ/この/たまさか/なる/みけしき/の/なつかしき/を/ば え/そむき/きこエ/ぬ/に おのづから/かくれ/なく/て おほみや/など/も/よろしから/ず/おぼし/なり/たれ/ば もの-おもはしく はしたなき/ここち/し/て すさまじげ/に/よりふし/たり たエて/み/たてまつら/ぬ/ところ/に かけはなれ/な/む/も さすが/に/こころぼそく/おもひ/みだれ/たり
中務の君は、本格的に琵琶を弾くのだが、頭中将の君が思いを寄せているのを相手にせず、ただこの源氏の君から受けるたまさかの愛情が慕わしく、離れ申し上げることができないために、ことが自然と知れわたり、大宮様なども不快にお考えになるので、ひどく悩ましくいたたまれない気持ちで、合奏に加わる気もおこらずものに寄りかかっていた。二度と拝見申し上げることのない所に行ってしまおうかとも思うが、それはさすがに心細くあれこれと思い乱れていた。
中務の君 わざと琵琶は弾けど 頭の君心かけたるをもて離れて ただこのたまさかなる御けしきのなつかしきをば え背ききこえぬに おのづから隠れなくて 大宮などもよろしからず思しなりたれば もの思はしく はしたなき心地して すさまじげに寄り臥したり 絶えて見たてまつらぬ所に かけ離れなむも さすがに心細く思ひ乱れたり
大構造と係り受け
古語探訪
中務の君 06032
葵の上につかえる女房。光の愛人のひとり。頭中将から好意を寄せられているが、それをはねのけている。
わざと 06032
本式に学んだなどの意味。今、演奏会が始まっているので、プロはだしの中務の君も加わるべきところだが、実らぬ光への思いからふさぎ込んでいる。
このたまさかなる御けしき 06032
が左大臣邸に宿泊する折りに、たまに光から情けを受けること。
大宮 06032
葵の母。本来なら、正妻である葵が嫉妬すべきところだが、中務に対しても光に対しても、葵の反応が見られない点に注意したい。
すさまじげに 06032
熱が冷めるが本義。教養ある女房として、得意の琵琶の演奏をしたいところであるが気が乗らないのである。
さすがに 06032
気持ちの上では、左大臣邸から出て、二度と光に逢うまいと考えることもあるが、実際にそれを行うとなると、逢えない淋しさが先立つのである。