心ばへ容貌など深き 末摘花02章04
原文 読み 意味
心ばへ容貌など 深き方はえ知りはべらず かいひそめ 人疎うもてなしたまへば さべき宵など 物越しにてぞ 語らひはべる 琴をぞなつかしき語らひ人と思へる と聞こゆれば
06008/難易度:☆☆☆
こころばへ/かたち/など ふかき/かた/は/え/しり/はべら/ず かい-ひそめ ひと/うとう/もてなし/たまへ/ば さ/べき/よひ/など ものごし/にて/ぞ かたらひ/はべる きん/を/ぞ/なつかしき/かたらひびと/と/おもへ/る と/きこゆれ/ば
「ご気性や顔形など詳しいことは存じません。すっかり正体を隠し、人を遠ざけてお過ごしですので、ご用のある宵などは、物越しでお話いたします。琴を心通う相手とお思いです」と申し上げると、
心ばへ容貌など 深き方はえ知りはべらず かいひそめ 人疎うもてなしたまへば さべき宵など 物越しにてぞ 語らひはべる 琴をぞなつかしき語らひ人と思へる と聞こゆれば
大構造と係り受け
古語探訪
かいひそめ 06008
「掻きひそめ」であり、すっかり姿をくらませとの意味。ひっそり暮らすという程度のことではない。そこへ出入りしている命婦にも姿を見せないことを言っているのである。
さべき 06008
「さ」は後の「語らふ」を受ける。語らうべき用事がある時にの意味。
琴 06008
「こと」と訓読みせず、「きん」と読むことになっている。それは中国の楽器であり、日本の「こと」とは別だからである。しかし、次の回で「御琴の音」と会話に出て来て、これは「こと」と読む以外にない。ここでも「こと」と読むのがよいのではないかと思っているが、今後も出て来る楽器であって、いつも「こと」と読むことにも抵抗感があるので、しばらく「きん」と読んでおく。ただし、どう読もうと、現在の「こと」ではない。あくまで中国の楽器なのである。この楽器は、紫式部の時代には、すでにすたれていたとのこと。しかし、そうした事実をもって、源氏物語の中で、この楽器が廃れていたことにはならない。物語の中で琴がどういう楽器であるかが問題である。それは物語を読み進めると自ずから理解されるであろう。光自身は、父である桐壺帝から伝授され、堪能な諸楽器の中でも得意中の得意にしている。