同じくはけ近きほど 末摘花02章13
原文 読み 意味
同じくは け近きほどの立ち聞きせさせよ とのたまへど 心にくくて と思へば いでや いとかすかなるありさまに思ひ消えて 心苦しげにものしたまふめるを うしろめたきさまにや と言へば げに さもあること にはかに我も人もうちとけて語らふべき人の際は 際とこそあれ など あはれに思さるる人の御ほどなれば なほ さやうのけしきをほのめかせ と 語らひたまふ
06017/難易度:☆☆☆
おなじく/は けぢかき/ほど/の/たちぎき/せ/させ/よ と/のたまへ/ど こころにくく/て/と/おもへ/ば いでや いと/かすか/なる/ありさま/に/おもひ/きエ/て こころぐるしげ/に/ものし/たまふ/める/を うしろめたき/さま/に/や と/いへ/ば げに さも/ある/こと にはか/に/われ/も/ひと/も/うちとけ/て/かたらふ/べき/ひと/の/きは/は きは/と/こそ/あれ など あはれ/に/おぼさ/るる/ひと/の/おほむ-ほど/なれ/ば なほ さやう/の/けしき/を/ほのめかせ/と かたらひ/たまふ
「どうせなら、親密になれる近さで立ち聞きをさせてほしい」とおっしゃるが、気になる程度にしておこうとの考えから、「どうでしょう、どこにも身の置き所がないよう消える思いいらし、いじらしくいらっしゃるようなのに、心配なご様子では」と言うと、まったくそれもそうである。いきなりこちらも向こうも、心開いて語らうことができるような身分であれば、その程度の身分の恋愛ですませられるが、相手がいたわしくお思いになるほどのご身分であるため、「それでも、そうした心配でいるこちらの思いをほのめかせよ」と語りかけになる。
同じくは け近きほどの立ち聞きせさせよ とのたまへど 心にくくて と思へば いでや いとかすかなるありさまに思ひ消えて 心苦しげにものしたまふめるを うしろめたきさまにや と言へば げに さもあること にはかに我も人もうちとけて語らふべき人の際は 際とこそあれ など あはれに思さるる人の御ほどなれば なほ さやうのけしきをほのめかせ と 語らひたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
け近き 06017
男女の親密な関係を指す言葉であって、単なる物理的近さを言うのではない。恋人でしか近寄れない距離まで、導けと言っているのである。
心にくくて 06017
長く聞かせては飽きられるとの心配から、興味を引く程度にとの思い。
いとかすかなるありさまに思ひ消えて 06017
気持ちが沈んでいることを言うのではなく、「かいひそめ人疎うもてなしたまえへば」の同義で、自分の存在を無に等しい小さなものと思い決めている様子を示す。
ありさまに思ひ消えて 06017
そういう風に思いが消えてではなく、そういう風に思って自分の身が消えているのである。
心苦しげ 06017
心配で胸がつまること。
うしろめたきさまにや 06017
光が性急に近づきたい様子を見せるので、単なる遊び相手として見ていないのではとの懸念から、心配ではありませんかと機先を制したのである。よって、「や」は詠嘆の終助詞ではなく、「やあらむ」という語りかけの省略であり、疑問の係助詞である。
げにさもあること 06017
「さも」は、「さもうしろめたきさまなり」の意味。
にはかに 06017
「うちとけて語らふべき」にかかる。
際は際とこそあれ 06017
当時のことわざであるらしく、そも本来の意味は知れないが、いきなりうちとけて語りあえる身分は、それだけの身分に過ぎない。自分たちはそんな恋愛をする身分ではないのだとの意味だと推測できる。
なほさやうのけしき 06017
「さ」について、A「け近きほどの立ち聞きせさせよ」とか、B「あはれに思される」を指すとかの説がある。Aは「あはれに思される人の御ほどなれば」に続かない。大事に思うのであれば、性急にはゆけないからだ。Bは光の心内語であり、これを受けるとするのは、他に受ける対象が見あたらない時に限るべきである。「なほ」は命婦に留められたがそれでも諦めがつかないという光の執着を示し、「さやうの気色」は命婦の発言である「うしろめたきさま(なり)」を受け、心配しているという気持ちをそれとなく伝えてほしいと、恋の橋渡しを依頼したのである。