左衛門の乳母とて大 末摘花02章01
原文 読み 意味
左衛門の乳母とて 大弐のさしつぎに思いたるが女 大輔の命婦とて 内裏にさぶらふ わかむどほりの兵部大輔なる女なりけり いといたう色好める若人にてありけるを 君も召し使ひなどしたまふ
06005/難易度:☆☆☆
さゑもんのめのと/とて だいに/の/さしつぎ/に/おぼい/たる/が/むすめ たいふのみやうぶ/とて うち/に/さぶらふ わかむどほり/の/ひやうぶのたいふ/なる/むすめ/なり/けり いと/いたう/いろこのめ/る/わかうど/にて/あり/ける/を きみ/も/めしつかひ/など/し/たまふ
左衛門の乳母と言って、大弐の乳母の次に君が大切にされていた乳母の娘は、大輔の命婦という呼び名で内裏に仕えているが、これは皇族の血を引く兵部大輔の娘であった。それはもう大変多情な若い女房であったのを、君も側に召し使いなどなさる。
左衛門の乳母とて 大弐のさしつぎに思いたるが女 大輔の命婦とて 内裏にさぶらふ わかむどほりの兵部大輔なる女なりけり いといたう色好める若人にてありけるを 君も召し使ひなどしたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
さしつぎに 06005
その次に。
わかむどほり 06005
皇族の血を引く。
色好める 06005
現代語の浮気者には当たらない。浮気者は否定のニュアンスしかないが、「色好み」は恋愛に積極的で旺盛なという肯定的な意味をもふくむ。
君も召し使ひなどしたまふ 06005
「も」に注意。本来、帝のために出仕している女房である大輔命婦を、光も召し使っていたのである。女房を使用することは、当然ながら肉体関係がありうることが前提になる。帝の女房を光が使用するとは、実に帝の女を寝取るという意味合いを持つのだ。こんなことが表立って許されるとは思われない。母と光の特別な関係(乳母は男子にとって、性の教育者であり、性の相手である)により、大輔命婦は、帝や同僚の女房たちには内密に、光のもとにも出入りしたのであろう。そうした危険な関係を通じて、秘密を分け合った相手であるから、光も気を許すことができ、末摘花に対する相談をもできるのだ。
「君も召し使ひなどしたまふ」の一文から、以上のようなことが読み取れるわけだが、逆にそうした前提なしに、二人が末摘花を落とす相談をするのは、わたしなどにははなはだ不自然に思える。もっと言えば、語釈などより、こうした物語の背景の説明がより大切ではないかと思うのだ。つまり、こうした背景の上に、源氏物語は構築されているのである。源氏物語に対する批判の多くは、こうした背景を知らずに読むから、不自然な作り物に思えてしまうのである。