寝られたまはぬまま 空蝉01章01

2021-03-31

原文 読み 意味

寝られたまはぬままには 我はかく人に憎まれてもならはぬを 今宵なむ初めて 憂しと世を思ひ知りぬれば 恥づかしくて ながらふまじうこそ思ひなりぬれなどのたまへば 涙をさへこぼして臥したり いとらうたしと思す 手さぐりの 細く小さきほど 髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも 思ひなしにやあはれなり あながちにかかづらひたどり寄らむも 人悪ろかるべく まめやかにめざましと思し明かしつつ 例のやうにものたまひまつはさず 夜深う出でたまへば この子は いといとほしく さうざうしと思ふ

03001/難易度:☆☆☆

ね/られ/たまは/ぬ/まま/に/は われ/は/かく/ひと/に/にくま/れ/て/も/ならは/ぬ/を こよひ/なむ/はじめて うし/と/よ/を/おもひ/しり/ぬれ/ば はづかしく/て ながらふ/まじう/こそ/おもひ/なり/ぬれ/など/のたまへ/ば なみだ/を/さへ/こぼし/て/ふし/たり いと/らうたし/と/おぼす てさぐり/の ほそく/ちひさき/ほど かみ/の/いと/ながから/ざり/し/けはひ/の/さま/かよひ/たる/も おもひなし/に/や/あはれ/なり あながち/に/かかづらひ/たどり/よら/む/も ひとわろかる/べく まめやか/に/めざまし/と/おぼし/あかし/つつ れい/の/やう/に/も/のたまひ/まつはさ/ず よぶかう/いで/たまへ/ば この/こ/は いと/いとほしく さうざうし/と/おもふ

君はお休みになれぬままに、「私はこんなにも人の恨みを買ったためしはこれまでなかったのに。今宵初めてつらいものだな、人の世はと重々思い知ったからは、もうみっともなくて、生きてはいけない気がしてきたよ」などとおっしゃるので、小君は申し訳ない上に、涙まで流して臥せていた。君はその様子をとてもいじらしくお思いになる。手探りで知った、女の華奢で小柄だった具合や髪のさほど長くないさまが、小君の感じと似通っているのも、血のつながりを思うからか、いとしい。無理にごり押しし尋ねあてたところで外聞がわるかろうしと、心底ひどい女だと恨みを抱かれながら夜を明かしになるばかりで、いつものように姉への手引きをご命じになることもなく、明け方前、邸を後にされたので、小君はとても責任を感じさみしい思いをする。

寝られたまはぬままには 我はかく人に憎まれてもならはぬを 今宵なむ初めて 憂しと世を思ひ知りぬれば 恥づかしくて ながらふまじうこそ思ひなりぬれなどのたまへば 涙をさへこぼして臥したり いとらうたしと思す 手さぐりの 細く小さきほど 髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも 思ひなしにやあはれなり あながちにかかづらひたどり寄らむも 人悪ろかるべく まめやかにめざましと思し明かしつつ 例のやうにものたまひまつはさず 夜深う出でたまへば この子は いといとほしく さうざうしと思ふ

大構造と係り受け

古語探訪

ながらふ 03001

生きつづける。

涙をさへ 03001

涙まで。何プラス涙までかを考えるのが大事である。この場合は、姉への取次ぎに失敗した申し訳なさ。

手さぐりの細く小さきほど髪のいと長からざりしけはひ 03001

暗闇の中で、空蝉と契りを結んだときに手の感触に残っている空蝉の記憶。このあたりはホモセクシャルを匂わせる。

思ひなし 03001

血縁を思うせいか。

まめやかにめざまし 03001

本気で不快に思う。めざましは予想や期待が覆されたときの感情。

例のやうにものたまひまつはさず 03001

いつもなら空蝉への取次ぎをあれこれ命じるところなのに、今夜は光も心底懲りてしまい、女を恨むことに意識はむかっている。

Posted by 管理者