東の妻戸に立てたて 空蝉02章02

2021-03-31

原文 読み 意味

東の妻戸に 立てたてまつりて 我は南の隅の間より 格子叩きののしりて入りぬ 御達 あらはなりと言ふなり なぞ かう暑きに この格子は下ろされたると問へば 昼より 西の御方の渡らせたまひて 碁打たせたまふと言ふ さて向かひゐたらむを見ばや と思ひて やをら歩み出でて 簾のはさまに入りたまひぬ この入りつる格子はまだ鎖さねば 隙見ゆるに 寄りて西ざまに見通したまへば この際に立てたる屏風 端の方おし畳まれたるに 紛るべき几帳なども 暑ければにや うち掛けて いとよく見入れらる

03005/難易度:☆☆☆

ひむがし/の/つまど/に たて/たてまつり/て われ/は/みなみ/の/すみ/の/ま/より かうし/たたき/ののしり/て/いり/ぬ ごたち あらは/なり/と/いふ/なり なぞ かう/あつき/に この/かうし/は/おろさ/れ/たる/と/とへ/ば ひる/より/にし-の-おほむ-かた/の/わたら/せ/たまひ/て ご/うた/せ/たまふ/と/いふ さて/むかひ/ゐ/たら/む/を/み/ばや/と/おもひ/て やをら/あゆみ/いで/て すだれ/の/はさま/に/いり/たまひ/ぬ この/いり/つる/かうし/は/まだ/ささ/ね/ば ひま/みゆる/に より/て/にし-ざま/に/みとほし/たまへ/ば この/きは/に/たて/たる/びやうぶ はし/の/かた/おし-たたま/れ/たる/に まぎる/べき/きちやう/など/も あつけれ/ば/に/や うち-かけ/て/いと/よく/みいれ/らる

建物の東に面した妻戸に君をお立て申し上げて、自分は南の隅の柱の間から、格子を叩き、大きな声を出しながら中に入って行った。女房たちが「丸見えよ」と言う声がする。「どうしてこんなに暑いのに、この格子はおろしておかれたのです」と問えば、「昼から西の対のお方がお越しになって、碁を打っておられるのです」と言う。そんなふうに二人で碁盤を挟んで向かい合っている姿を見たいと思い、そっと妻戸の前から簀子に出て、格子の内外に垂れる二重簾の間にお入りになった。小君が入っていったこの格子はまだ閉ざされていないので、内側の簾の隙間越しに中が見えるまで近寄って、西向きにごらんになると、格子の側に立ててある屏風の端がたたまれている上、視界をふさぐ几帳なんかも暑さのせいか、帷子がまくり上げてあるので、とてもよく見通される。

東の妻戸に 立てたてまつりて 我は南の隅の間より 格子叩きののしりて入りぬ 御達 あらはなりと言ふなり なぞ かう暑きに この格子は下ろされたると問へば 昼より 西の御方の渡らせたまひて 碁打たせたまふと言ふ さて向かひゐたらむを見ばや と思ひて やをら歩み出でて 簾のはさまに入りたまひぬ この入りつる格子はまだ鎖さねば 隙見ゆるに 寄りて西ざまに見通したまへば この際に立てたる屏風 端の方おし畳まれたるに 紛るべき几帳なども 暑ければにや うち掛けて いとよく見入れらる

大構造と係り受け

古語探訪

妻戸 03005

簀子(縁)と廂の間にある両開きの戸。建物の四方にあるとされていたが、西の対や東の対につづく渡殿(建物間の渡り廊下)に面してあるものなので、建物の南北にはないと現在は考えられている。東に二つ西に二つ、それぞれ隣接した感じで並ぶ。ここは、後のくだりから判断して、そのうちの東に面した南側の妻戸。元来、女性を尋ねたきた男性は、妻戸の前の簀子に座って、女房に取次ぎ、中に入ってよいかどうかを尋ねる。小君が光を妻戸の前に立たせたのは、そうした男女のやりとりの形式にならうやり方をとっているのである。ただし、相手が貴族であるので座らせずに立っていただいているのであろう。

南の隅の間 03005

東西の出入り口は妻戸であるが、南北の出入り口は格子である。ここは南に面した格子のうち一番東側。

叩きののしりて 03005

注意を自分に引きつける。

御達 03005

女房たち。

あらはなり 03005

露わに見えること。格子を開けたまま小君は入ったのである。

西の御方 03005

空蝉の帖のもう一人のヒロインである、西の対に住んでいる軒端荻。伊予介の娘で、紀伊守の妹。

さて 03005

御達が言うような状態で。

やをら 03005

そっと。

歩み出てて 03005

妻戸の前より簀子に出る。それから東南の角を回り、小君が入っていった南に面した東端の格子の前に歩いてきた。

几帳 03005

移動式のカーテンで、十字に木が交差しているうち、横木部分が帷子(かたびら)という薄いカーテンになり、縦木は支えとなっている。

うち掛け 03005

暑いから帷子を横木にまくり上げている。

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