にぎははしう愛敬づ 空蝉02章06

2021-03-31

原文 読み 意味

にぎははしう愛敬づきをかしげなるを いよいよほこりかにうちとけて 笑ひなどそぼるれば にほひ多く見えて さる方にいとをかしき人ざまなり あはつけしとは思しながら まめならぬ御心は これもえ思し放つまじかりけり

03009/難易度:☆☆☆

にぎははしう/あいぎやうづき/をかしげ/なる/を いよいよ/ほこりか/に/うちとけ/て わらひ/など/そぼるれ/ば にほひ/おほく/みエ/て さる/かた/に/いと/をかしき/ひとざま/なり あはつけし/と/は/おぼし/ながら まめ/なら/ぬ/みこころ/は これ/も/え/おぼし/はなつ/まじかり/けり

片や陽気で人好きのする美形であるが、ますます得意げに心から笑いはしゃぐので、匂いやかな美しさがあふれんばかりに感じられ、その面ではとても魅力ある部類に属す。はすはな女だとお感じになりながら、誠実さを欠く今の御心では、こちらも見過ごしになれそうにはないのだった。

にぎははしう愛敬づきをかしげなるを いよいよほこりかにうちとけて 笑ひなどそぼるれば にほひ多く見えて さる方にいとをかしき人ざまなり あはつけしとは思しながら まめならぬ御心は これもえ思し放つまじかりけり

大構造と係り受け

古語探訪

いよいよほこりかにうちとけて笑ひなどそぼるれば 03009

「ほこりかにうちとく」(得意そうに心をゆるす)というかかり方ができないのだから、「いよいよ」は「うちとけて」にかかるのではなく、「そぼるれば」にかかる。「ほこりかに」と「うちとけて」は並列の関係で「笑ひなどそぼるれば」にかかる。

さる方に 03009

その方面では。すなわち外見。精確には匂わしさの面。空蝉と軒端荻の決定的違いは、「にほはしきところ」の有無。

にほひ 03009

今風に言えば、性的刺激物質、女性フェロモンなのであろう。それは、「心あらむ」という「心」の問題でなく、視覚的な面におおく負っていることが、この文章からわかる。平安朝の恋愛は、和歌や字や楽器のうまさなどの教養面が中心であるかのように説かれるが、そうした間接的刺激よりも、透き見という生の刺激が強烈であろうことは想像にかたくない。しかし、それのみでは動物に変わりなく、それをいかに文化的な文脈に置き換えて行かが、その時代の文化水準の高低を決定するのであろう。

人ざま 03009

人柄ではない。現代語の人柄は性格の意味であり、軒端荻の性格は問題にしていない。この「人ざま」はタイプの意味。におわしさの面ではとても魅力的なタイプの女性だ、ということ。

あはつけし 03009

軽はずみな。

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