小君御車の後にて二 空蝉05章01

2021-03-31

原文 読み 意味

小君 御車の後にて 二条院におはしましぬ ありさまのたまひて 幼かりけり とあはめたまひて かの人の心を爪弾きをしつつ恨みたまふ いとほしうて ものもえ聞こえず いと深う憎みたまふべかめれば 身も憂く思ひ果てぬ などか よそにても なつかしき答へばかりはしたまふまじき 伊予介に劣りける身こそなど 心づきなしと思ひてのたまふ ありつる小袿を さすがに 御衣の下に引き入れて 大殿籠もれり

03021/難易度:☆☆☆

こぎみ みくるま/の/しり/にて にでう-の-ゐん/に/おはしまし/ぬ ありさま/のたまひ/て をさなかり/けり と/あはめ/たまひ/て かの/ひと/の/こころ/を/つまはじき/を/し/つつ/うらみ/たまふ いとほしう/て もの/も/え/きこエ/ず いと/ふかう/にくみ/たまふ/べか/めれ/ば み/も/うく/おもひ/はて/ぬ などか よそ/にて/も なつかしき/いらへ/ばかり/は/し/たまふ/まじき いよ-の-すけ/に/おとり/ける/み/こそ など こころづきなし/と/おもひ/て/のたまふ ありつる/こうちき/を さすがに おほむ-ぞ/の/した/に/ひき-いれ/て おほとのごもれ/り

小君をお車の後ろに従えて、君はご自邸である二条院にお帰りになった。ことの仔細をおっしゃって、「稚拙だ」と小君の計画を非難なされ、あの女のねじけた性根を爪弾きしてお恨みになる。小君は申し訳なくて何も申し上げることができない。「とてもひどくお憎みようだから、この身も嫌でたまらなくなってしまった。どうして、直接逢わないにしても、慕わしく思わせる返事くらいなさってはいけなかろう。伊予介に劣った身だからだめなのか」などと、気にいらぬ女だと思っておっしゃる。それでもさすがに先刻の小袿を、お召物の中へ引き入れて、お休みになられた。

小君 御車の後にて 二条院におはしましぬ ありさまのたまひて 幼かりけり とあはめたまひて かの人の心を爪弾きをしつつ恨みたまふ いとほしうて ものもえ聞こえず いと深う憎みたまふべかめれば 身も憂く思ひ果てぬ などか よそにても なつかしき答へばかりはしたまふまじき 伊予介に劣りける身こそなど 心づきなしと思ひてのたまふ ありつる小袿を さすがに 御衣の下に引き入れて 大殿籠もれり

大構造と係り受け

古語探訪

小君御車の後にて二条院におはしましぬ 03021

主語は光であり、「小君、御車のしりにて」は英語でいう付帯状況。小君を牛車の後部に乗せた状態で。この日、来る時は小君の車であったが、帰る時は光の牛車に替わった。小君の車に乗ったのは小君の策略の一つであり、帰りに光の牛車になったのは、これが通常の乗り物だからである。「二条院」は光の自邸。左大臣家のものではない。

幼かりけり 03021

小君の策略に対して。

あはめ 03021

難する。

かの人の心 03021

空蝉の心根。性格の悪さを爪弾きする。

爪弾き 03021

親指の腹に、人差し指か中指の爪先をかけて床を弾く動作で、不快感をあらわす。

いとほしうて 03021

自分の策略の拙さに対して罪を感じること。気の毒といった第三者の立場の感情ではない。

身も憂く思ひ果てぬ 03021

「今宵なむ初めて憂しと世を思ひ知りぬれば/03001」が光の脳裏の底にあるのだろう、この世ばかりかこの身までが疎ましいものに成り果てた。

よそにても 03021

直接逢わずに手紙や小君を介する伝言でも。

なつかしき答へ 03021

光をなつかしむ答えとも、光が読んで相手をなつかしく思う答えとも読めるが、「ばかり」とあって、最低限の願望だから後者にとる方が文脈に添うであろう。「なつかしき」は懐旧の思いでなく、慕わしいの意味。すなわち愛情がこもる。

伊予介に劣りける身こそ 03021

後には省略がある。省略が成り立つのは、省いても意味が補えるからである。省略のパターンは二つで、前の文章の繰り返しを省く場合と、決り文句めいていて誰でもわかる場合である。繰り返しの省略と考えると、慕わしく思わせる返事はしないのであろうとなり、当然の省略なら、あわれである、とでもなる。

心づきなし 03021

愛情がわかない、気に入らない。

ありつる小袿 03021

空蝉が脱ぎ捨てて逃げた薄衣でできた羽織。

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