小君近う臥したるを 空蝉04章01

2021-03-31

原文 読み 意味

小君近う臥したるを起こしたまへば うしろめたう思ひつつ寝ければ ふとおどろきぬ 戸をやをら押し開くるに 老いたる御達の声にて あれは誰そ とおどろおどろしく問ふ わづらはしくて まろぞと答ふ 夜中に こは なぞ外歩かせたまふ とさかしがりて 外ざまへ来 いと憎くて あらず ここもとへ出づるぞとて 君を押し出でたてまつるに 暁近き月 隈なくさし出でて ふと人の影見えければ またおはするは 誰そと問ふ 民部のおもとなめり けしうはあらぬおもとの丈だちかなと言ふ 丈高き人の常に笑はるるを言ふなりけり

03019/難易度:☆☆☆

こぎみ/ちかう/ふし/たる/を/おこし/たまへ/ば うしろめたう/おもひ/つつ/ね/けれ/ば ふと/おどろき/ぬ と/を/やをら/おし/あくる/に おイ/たる/ごたち/の/こゑ/に/て あれ/は/たそ/と/おどろおどろしく/とふ わづらはしく/て まろ/ぞ/と/いらふ よなか/に こは なぞ/と/ありか/せ/たまふ と/さかしがり/て とざま/へ/く いと/にくく/て あら/ず ここ/もと/へ/いづる/ぞ/とて きみ/を/おし/いで/たてまつる/に あかつき/ちかき/つき/くまなく/さし-いで/て ふと/ひと/の/かげ/みエ/けれ/ば また/おはする/は たそ/と/とふ みんぶ-の-おもと/な/めり おもと/の/たけだち/かな/と/いふ たけ/たかき/ひと/の/つね/に/わらは/るる/を/いふ/なり/けり

小君が近くで寝ているをのお起こしになると、気がかりに思いつつ寝ていたので、すぐに目が醒めた。小君が妻戸をそっと押し開けると、年をとった女房の声で、「そこにいるのは誰じゃ」と、人を脅すような大袈裟な声で聞く。面倒なことになったぞと思い、「わたしだ」と答える。「夜中に、何として出歩きなさる」と、老女が要らぬ世話を焼いて、外の方へやってくる。本当に憎らしくて、「何でもない。戸口へ出るだけだ」と答え、君を外へ押し出し申し上げると、暁近い月が四方をくまなく照らしだしており、ふと人の影が見えたので、老女は、「もひとりおいでだが、どなたじゃ」と問う。「民部のおもとらしいわい。なかなか立派なおまえ様の背丈じゃこと」と、みずから答えを出す。背の高い人がいつも笑われているのを言うのであった。

小君近う臥したるを起こしたまへば うしろめたう思ひつつ寝ければ ふとおどろきぬ 戸をやをら押し開くるに 老いたる御達の声にて あれは誰そ とおどろおどろしく問ふ わづらはしくて まろぞと答ふ 夜中に こは なぞ外歩かせたまふ とさかしがりて 外ざまへ来 いと憎くて あらず ここもとへ出づるぞとて 君を押し出でたてまつるに 暁近き月 隈なくさし出でて ふと人の影見えければ またおはするは 誰そと問ふ 民部のおもとなめり けしうはあらぬおもとの丈だちかなと言ふ 丈高き人の常に笑はるるを言ふなりけり

大構造と係り受け

古語探訪

うしろめたう 03019

心配である。

戸 03019

東の廂の妻戸。

やをら 03019

そっと。

御達 03019

女房たち。

おどろおどろしく 03019

相手を威圧するような仰々しい様子。ここはきびしく尋問する調子。

わづらはしくて 03019

ここでは人に見つかり面倒だと思う気持ち。

外歩かせたまふ 03019

出歩く。戸口から出ようとしていたので、こんな夜中にどうして出歩くのかと聞いた。

さかしがり 03019

「さかし」が立派なふるまいであるのに対して、「さかしがり」は小君の立場から余計なお世話であるという意識が働く。

あらず 03019

怪しいものではないという返事。

ここもと 03019

妻戸の出たあたり。妻戸の前で今まさに出ようというところに老女に問われたのである。そこで先ず光を外に押し出す。すると、月の明るい夜更けだったので、老女は光の影を見つけて誰何する。なお、「暁」は暗闇から薄明かりに変化しだす頃。「あか」(明るい)+「つき」(し始める)。夜を明かした男女が別れる時刻である。しかし、老女は目が悪いので、相手が光だとは思わず、影の大きさからいつも長身で笑われている民部のおもとと勘違いする。

おもと 03019

女房を親しんで呼ぶ敬称。また女房同士が、おまえ・あなたのように二人称としても使う。

けしう 03019

後ろに「まゐりたる」などの省略。空蝉の発言「中将の君はいづくにぞ/02124」を受ける。

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