君は入りたまひてた 空蝉03章06
- 1. 原文 読み 意味
- 1.1. 大構造と係り受け
- 1.1.1. 古語探訪
- 1.1.1.1. 床 03016
- 1.1.1.2. 下 03016
- 1.1.1.3. 衣 03016
- 1.1.1.4. ありしけはひ 03016
- 1.1.1.5. ものものしく 03016
- 1.1.1.6. 思ほしうも寄らずかし 03016
- 1.1.1.7. かし 03016
- 1.1.1.8. いぎたなきさま 03016
- 1.1.1.9. やうやう 03016
- 1.1.1.10. 見あらはし 03016
- 1.1.1.11. あさましく心やましけれ 03016
- 1.1.1.12. たどりて見えむ 03016
- 1.1.1.13. をこがましく 03016
- 1.1.1.14. あやしと思ふべし 03016
- 1.1.1.15. 本意 03016
- 1.1.1.16. をこに 03016
- 1.1.1.17. をかしかりつる火影 03016
- 1.1.1.18. いかがはせむ 03016
- 1.1.1.19. 悪ろき御心浅さ 03016
- 1.1.1. 古語探訪
- 1.1. 大構造と係り受け
原文 読み 意味
君は入りたまひて ただひとり臥したるを心やすく思す 床の下に二人ばかりぞ臥したる 衣を押しやりて寄りたまへるに ありしけはひよりは ものものしくおぼゆれど 思ほしうも寄らずかし いぎたなきさまなどぞ あやしく変はりて やうやう見あらはしたまひて あさましく心やましけれど 人違へとたどりて見えむも をこがましく あやしと思ふべし 本意の人を尋ね寄らむも かばかり逃るる心あめれば かひなう をこにこそ思はめと思す かのをかしかりつる灯影ならば いかがはせむに思しなるも 悪ろき御心浅さなめりかし
03016/難易度:☆☆☆
きみ/は/いり/たまひ/て ただ/ひとり/ふし/たる/を/こころやすく/おぼす ゆか/の/しも/に ふたり/ばかり/ぞ/ふし/たる きぬ/を/おしやり/て/より/たまへ/る/に ありし/けはひ/より/は ものものしく/おぼゆれ/ど おもほしう/も/よら/ず/かし いぎたなき/さま/など/ぞ あやしく/かはり/て やうやう/み/あらはし/たまひ/て あさましく/こころやましけれ/ど ひとたがへ/と/たどり/て/みエ/む/も をこがましく あやし/と/おもふ/べし ほい/の/ひと/を/たづね/よら/む/も かばかり/のがるる/こころ/あ/めれ/ば かひなう をこ/に/こそ/おもは/め/と/おぼす かの/をかしかり/つる/ほかげ/なら/ば いかが/は/せ/む/に/おぼし/なる/も わろき/みこころ/あささ/な/めり/かし
君はお入りになって、女がただひとり臥している様子にほっとなさる。北廂にも二人ばかり女房が寝ている。上にかけている衾(フスマ)を押しのけて寄り添われると、以前の感じより柄が大きいような気になられるが、別人であるとは思いよられることもないのですね。眠りこけている様子など、なぜかしらおも変わりして、しだいに正体がお分かりになって、なんて女だと空蝉に対して忌々しく苛立たれるが、人違いであったと勘付いて、軒端荻からそう見られるのはみっともなく、人格を疑うであろうし、もともとの狙いである意中の人を尋ね当てようにも、こうまで逃れる気が強ければ、探し甲斐もなく、間抜けな男と思うであろうとお考えになる。これがあの火影の下で見た美しい女であれば、どうしようか、抱くよりほかにしようがないではないかというお気持ちになられるのも、よくない浅慮でしょうね。
君は入りたまひて ただひとり臥したるを心やすく思す 床の下に二人ばかりぞ臥したる 衣を押しやりて寄りたまへるに ありしけはひよりは ものものしくおぼゆれど 思ほしうも寄らずかし いぎたなきさまなどぞ あやしく変はりて やうやう見あらはしたまひて あさましく心やましけれど 人違へとたどりて見えむも をこがましく あやしと思ふべし 本意の人を尋ね寄らむも かばかり逃るる心あめれば かひなう をこにこそ思はめと思す かのをかしかりつる灯影ならば いかがはせむに思しなるも 悪ろき御心浅さなめりかし
大構造と係り受け
古語探訪
床 03016
板敷きの場所。ここは母屋の外にある廂をさすと考えられている。
下 03016
下手の意味で、特定できないが、『帚木』でもそうであったように、北と考えてよいであろう。
衣 03016
今のかけ布団にあたる、衾。
ありしけはひ 03016
最初の出会いの夜。
ものものしく 03016
大柄。
思ほしうも寄らずかし 03016
相手が空蝉でないことを思いもよらない。
かし 03016
聞き手への確認。
いぎたなきさま 03016
陶然と眠りこけている様子。
やうやう 03016
次第に。
見あらはし 03016
不明であったことを発見する、つまり、相手が空蝉でないことに気づく。
あさましく心やましけれ 03016
ともに空蝉に対する感情。「あさまし」は相手をひどいと思う感情で、「心やまし」は出しぬかれて忌々しく思う気持ち。
たどりて見えむ 03016
軒端荻が人違いだと勘付くこと、光が気づくのではない。光がそう見られること。敬語がないのは、光の心中語であるから。
をこがましく 03016
物笑いになること。
あやしと思ふべし 03016
具体的には、夜這いをかけられ肉体関係まで結んだあとに、人違いであったと知れば、ただの女好きであると光の人格を疑うであろうということ。
本意 03016
もともとの願い。
をこに 03016
人々が散らばる。
をかしかりつる火影 03016
「火近う灯したり/03006」とあり、その灯下で「をかしげなる人と見えたり/03007」とあった。
いかがはせむ 03016
どうしようか、どうしようもないという他に方法がない時に、捨て鉢に決心する時の言葉。ここで何を決心したかは書かれていないが、もちろん、この女と契ろうという決心。ただし、この場合は契らねばならない必然性はないので、多分に自分への言い訳めいている。
悪ろき御心浅さ 03016
心浅さに形容詞わろしがついたもの。心浅さは浅慮。