火近う灯したり母屋 空蝉02章03
原文 読み 意味
火近う灯したり 母屋の中柱に側める人やわが心かくると まづ目とどめたまへば 濃き綾の単衣襲なめり 何にかあらむ上に着て 頭つき細やかに小さき人の ものげなき姿ぞしたる 顔などは 差し向かひたらむ人などにも わざと見ゆまじうもてなしたり 手つき痩せ痩せにて いたうひき隠しためり
03006/難易度:☆☆☆
ひ/ちかう/ともし/たり もや/の/なか-ばしら/に/そばめ/る/ひと/や/わが/こころ/かくる/と まづ/め/とどめ/たまへ/ば こき/あや/の/ひとへ-がさね/な/めり なに/に/か/あら/む/うへ/に/き/て かしらつき/ほそやか/に/ちひさき/ひと/の ものげなき/すがた/ぞ/し/たる かほ/など/は さしむかひ/たら/む/ひと/など/に/も わざと/みゆ/まじう/もてなし/たり てつき/やせやせ/にて いたう/ひき-かくし/た/めり
二人の近くに灯が点してある。母屋の中柱のあたりで横向きの姿勢の人が自分が心を寄せる人だろうかと、先ず目をお留めになると、下着は濃い紫の綾織りの単衣襲だろうか、何かをその上に着て、頭の形もほっそりとした小柄な人が特に目立つ特徴もない姿で座っており、その顔などは、差し向かいにいる人などにもわざと見られないように心がけている。手の具合は痩せに痩せ、石を置くにも袖から出ぬようひどく気にしている様子である。
二人の近くに灯が点してある。母屋の中柱のあたりで横向きの姿勢の人が自分が心を寄せる人だろうかと、先ず目をお留めになると、下着は濃い紫の綾織りの単衣襲だろうか、何かをその上に着て、頭の形もほっそりとした小柄な人が特に目立つ特徴もない姿で座っており、その顔などは、差し向かいにいる人などにもわざと見られないように心がけている。手の具合は痩せに痩せ、石を置くにも袖から出ぬようひどく気にしている様子である。
大構造と係り受け
古語探訪
灯近う 03006
どこに灯りが近いのか不明だが、光の興味の対象である碁をかこむ二人の女性の近くと考えるのが適当であろう。光の近くではまぶしすぎて逆光になる。
中柱 03006
部屋の中ほどにあって壁面に接していない柱。
側める 03006
横目、横向き。
濃き 03006
濃い紫。
単衣襲 03006
夏用の下着。古くは二枚着ていたものを、合わせてひとえになった。
ものげなき姿 03006
地味で、特徴のない姿。
もてなし 03006
意識的に心がけること。
いたうひき隠しためり 03006
碁石を置く際に袖口から痩せた手が出ないように注意を怠らないこと。