たとしへなく口おほ 空蝉02章05
原文 読み 意味
たとしへなく口おほひて さやかにも見せねど 目をしつけたまへれば おのづから側目も見ゆ 目すこし腫れたる心地して 鼻などもあざやかなるところなうねびれて にほはしきところも見えず 言ひ立つれば 悪ろきによれる容貌をいといたうもてつけて このまされる人よりは心あらむと 目とどめつべきさましたり
03008/難易度:☆☆☆
たとしへなく/くち/おほひ/て さやか/に/も/みせ/ね/ど め/を/し/つけ/たまへ/れ/ば おのづから/そばめ/も/みゆ め/すこし/はれ/たる/ここち/し/て はな/など/も/あざやか/なる/ところ/なう/ねびれ/て にほはしき/ところ/も/みエ/ず いひたつれ/ば わろき/に/よれ/る/かたち/を/いと/いたう/もてつけ/て この/まされ/る/ひと/より/は/こころ/あら/む/と め/とどめ/つ/べき/さま/し/たり
片やこれと異なり、袖で口をおおいはっきりと顔を見せないが、目をじっとこらしてご覧になると、しぜんと横顔が見られる。目がすこし腫れた感じがして、鼻筋などもすっと通ったところがなくくたびれて、匂い立つ美しさも見られない。断ずれば、良くない方に入る容貌だが、とてもよく繕って、一方の器量にすぐれる人よりはたしなみ深かろうと、誰しも目をとめずにおかぬ様子をしている。
たとしへなく口おほひて さやかにも見せねど 目をしつけたまへれば おのづから側目も見ゆ 目すこし腫れたる心地して 鼻などもあざやかなるところなうねびれて にほはしきところも見えず 言ひ立つれば 悪ろきによれる容貌をいといたうもてつけて このまされる人よりは心あらむと 目とどめつべきさましたり
大構造と係り受け
古語探訪
たとしへなく 03008
軒端荻に比べて全然違うこと。
目をし 03008
「し」は強意。目をば。
ねびれて 03008
老けて。
悪ろきによれる 03008
よくない顔の側に寄っている、すなわち、よくない方である。よくない方に近いという日本語は不自然。悪い方に近いという日本語はあるが、少し意味がずれる。
心あらむ 03008
顔をおおったり、痩せた手を隠したり、正面から顔をさらさぬように工夫したりしている面でたしなみがあるということ。