幼き心地にいかなら 空蝉02章01
原文 読み 意味
幼き心地に いかならむ折と待ちわたるに 紀伊守国に下りなどして 女どちのどやかなる夕闇の道たどたどしげなる紛れに わが車にて率てたてまつる この子も幼きを いかならむと思せど さのみもえ思しのどむまじければ さりげなき姿にて 門など鎖さぬ先にと 急ぎおはす 人見ぬ方より引き入れて 降ろしたてまつる 童なれば 宿直人などもことに見入れ追従せず 心やすし
03004/難易度:☆☆☆
をさなき/ここち/に いか/なら/む/をり/と/まち/わたる/に きのかみ/くに/に/くだり/など/し/て をむなどち/のどやか/なる/ゆふやみ/の/みち/たどたどしげ/なる/まぎれ/に わが/くるま/にて/ゐ/て/たてまつる この/こ/も/をさなき/を いか/なら/む/と/おぼせ/ど さ/のみ/も/え/おぼし/のどむ/まじけれ/ば さりげなき/すがた/にて かど/など/ささ/ぬ/さき/に/と いそぎ/おはす ひと/み/ぬ/かた/より/ひきいれ/て おろし/たてまつる わらは/なれ/ば とのゐびと/など/も/こと/に/みいれ/ついせう/せ/ず こころ/やすし
子供心にも、どんな機会にお連れしようかと待ちつづけているうちに、紀伊守が任国に下るというようなことがあって、女たちだけでのんびりくつろいでいる夕暮れの「手探りで進む」と詠まれた歌のように小暗い闇に紛れて、小君は自分の車で光を邸へお連れする。この子も幼いからどうなることだろうと君は心配されるが、そんなふうに案じてばかりで引き伸ばせてもおられず、外出には向かない普段着のまま、門が締まる前に着こうと急いでお越しになる。人目に立たぬ場所から車を引き入れて、君を下ろし申し上げる。相手がこの家の子供なので、宿直人なども特に気に留めたり、付いて来たりせず、見つかる心配がない。
幼き心地に いかならむ折と待ちわたるに 紀伊守国に下りなどして 女どちのどやかなる夕闇の道たどたどしげなる紛れに わが車にて率てたてまつる この子も幼きを いかならむと思せど さのみもえ思しのどむまじければ さりげなき姿にて 門など鎖さぬ先にと 急ぎおはす 人見ぬ方より引き入れて 降ろしたてまつる 童なれば 宿直人などもことに見入れ追従せず 心やすし
大構造と係り受け
古語探訪
いかならむ折 03004
源氏を空蝉に遭わせるのにどういう機会がよかろうとの意味。
女どち 03004
女だけ。
道たどたどしげなる 03004
「夕闇は道たどたどし月待ちて帰れわが背子その間にも見む」(『古今六帖』)による。夕闇の道は手探りで進むように暗くて進みにくいこと。
さのみもえ思しのどむまじけれ 03004
そのように心配ばかりして時間を無駄にはできないとの意味。
思しのどむ 03004
のんびりするの意味ではなく、そのようにばかり思い、時間を引き延ばす(思し+のどむ)である。
さりげなき姿 03004
「さありげなき姿」はそうある風でもない姿。外出には外出に向いた格好があるが、それに適さない姿、すなわち普段着のまま。
門など鎖さぬ先に 03004
夜になると門など入り口がいっさい締まるから。
童なれば 03004
「童」はこの家の子供。車から人が降りれば、誰なのか警備員である宿直人は注意するが、小君の車だから警戒されずにすむ。子供なら誰にでも警戒されないのではない。相手がこの家の子供であるからである。そのために、申し訳ないが光を自分のみすぼらしい車にお乗せしているのだ。
見入れ 03004
警戒して注意する。
追従 03004
機嫌をとるでは文脈的に意味がない。ここは、誰がいっしょなのかと怪しんで後をついて来ること。
心やすし 03004
小君といっしょだから、見つかるどうかはらはらせずにすんだ。