03空蝉01 囲碁の対局

2021-04-01

目次

03空蝉 原 読かな 対訳 001/036@源氏物語

イ:や行の「い」/エ:や行の「え」

《寝られたまはぬままには 我はかく人に憎まれてもならはぬを》001
ね/られ/たまは/ぬ/まま/に/は われ/は/かく/ひと/に/にくま/れ/て/も/ならは/ぬ/を
君はお休になれぬままに、「私はこんなにも人の恨を買ったためしはこれまでなかったのに。


今宵なむ初めて 憂しと世を思ひ知りぬれば 恥づかしくて》001
こよひ/なむ/はめて うし/と/よ/を/おもひ/しり/ぬれ/ば はづかしく/て
今宵初めてつらいものだな、人の世はと重々思い知ったからは、もうっともなくて、


ながらふうこそ思ひなりぬれなどのたまへば 涙をさへこぼして臥したり》001
ながらふ/まう/こそ/おもひ/なり/ぬれ/など/のたまへ/ば なだ/を/さへ/こぼし/て/ふし/たり
生きてはいけない気がしてきたよ」などとおっしゃるので、小君は申し訳ない上に、涙まで流して臥せていた。


《いとらうたしと思す》002
いと/らうたし/と/おぼす
君はその様子をとてもいらしくお思いになる


さぐりの 細く小さきほど 髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも 思ひなしにやあはれなり》003
てさぐり/の ほそく/ちひさき/ほど か/の/いと/ながから/ざり/し/けはひ/の/さま/かよひ/たる/も おもひなし/に/や/あはれ/なり
探りで知った、女の華奢で小柄だった具合や髪のさほど長くないさまが、小君の感と似通っているのも、血のつながりを思うからか、いとしい。


《あながちにかかづらひたどり寄らむも 人悪ろかるべく まめやかにめざましと思し明かしつつ のやうにものたまひまつはさず》004
あながち/に/かかづらひ/たどり/よら/む/も ひとわろかる/べく まめやか/に/めざまし/と/おぼし/あかし/つつ れい/の/やう/に/も/のたまひ/まつはさ/ず
無理にごり押しし尋ねあてたところで外聞がわるかろうしと、底ひどい女だと恨を抱かれながら夜を明かしなるばかりで、いつものように姉への引きをご命なることもなく


《夜深う出でたまへば この子は いといとほしく さうざうしと思ふ》005
よぶかう/いで/たまへ/ば この/こ/は いと/いとほしく さうざうし/と/おもふ
明け前、邸を後にされたので、小君はとても責任を感しい思いをする。


《女も 並々ならずかたはらいたしと思ふに 御消息も絶えてなし》006
をむな/も な/なら/ず/かたはらいたし/と/おもふ/に おほむ-せうそく/も/たエて/なし
女もひとかたならず居たたまれなさにさいなまれてならないのに、君からのお便りは絶えてない。


《思し懲りにけると思ふにも》007
おぼし/こり/に/ける/と/おもふ/に/も
お懲りになってしまわれたようだと思うにつけても、


《やがてつれなくてたまひなましかば憂からまし しひていとほしき御振る舞ひの絶えざらむもうたてあるべし》007
やがて/つれなく/て/や/たまひ/な/ましか/ば/うから/まし しひて/いとほしき/おほむ-ふるまひ/の/たエ/ざら/む/も/うたて/ある/べし
このままつれなく縁をお切りになってしまわれてはさぞつらかろう、が、申し訳ないながらもお受けできないご無理な振る舞いが絶えずつづくのも嘆かわしいことであろう、


《よきほどに かくて閉ぢめてむと思ふものから ただならず ながめがちなり》007
よき/ほど/に かくて/とぢめ/て/む/と/おもふ/ものから ただならず ながめがち/なり
今をよい潮時にして、このまま幕引きにしてしまおうと思うものの、いつになく物思いにふけりがちである。


《君はづきなしと思しながら かくてはえ止むまう御にかかり 人悪ろく思ほしわびて》008
/は/こころづきなし/と/おぼし/ながら かくて/は/え/やむ/まう/こころ/に/かかり ひとわろく/おもほし/わび/て
君はいけ好かぬ女だと思われながらも、このままでは諦め得ようがないと深く御にかかり、っともないほど思い悩んだ上、


《小君に いとつらうもうれたうもおぼゆるに しひて思ひ返せど にしも従はず苦しきを》008
こぎ/に いと/つらう/も/うれたう/も/おぼゆる/に しひて/おもひかへせ/ど こころ/に/しも/したがは/ず/くるしき/を
小君に、「まったくむごくも忌々しくも思われるゆえ、無理に思いを断とうとすれど、思うにまかせず苦しくて、


さりぬべきをり見て 対面すべくたばかれとのたまひわたれば》008
さりぬべき/をり//て たいめん/す/べく/たばかれ/と/のたまひ/わたれ/ば
適当なおりをて、対面できるようはからっとくれ」と、たびたびご命になられるものだから、


《わづらはしけれど かかるにても のたまひまつはすは うれしうおぼえけり》008
わづらはしけれ/ど かかる/かた/にて/も のたまひ/まつはす/は うれしう/おぼエ/けり
難儀なことではあるが、このような恋の引き役でさえ、ご用勤めにお側にはべらせになることを、小君はうれしく思えのるだった。


《幼き地に いかならむ折と待ちわたるに》009
をさなき/ここち/に いか/なら/む/をり/と/まち/わたる/に
子供にも、どんな機会にお連れしようかと待ちつづけているうちに、


《紀伊守国に下りなどして 女どちのどやかなる夕闇の道たどたどしげなる紛れに わが車にて率てたてまつる》009
きのか/くに/に/くだり/など/し/て をむなどち/のどやか/なる/ゆふや/の/ち/たどたどしげ/なる/まぎれ/に わが/くるま/にて/ゐ/て/たてまつる
紀伊守が任国に下るというようなことがあって、女たちだけでのんびりくつろいでいる夕暮れの「探りで進む」と詠まれた歌のように小暗い闇に紛れて、小君は自分の車で光を邸へお連れする。


《この子も幼きを いかならむと思せど さのみもえ思しのどむまければ さりげなき姿にて 門など鎖さぬ先にと 急ぎおはす》010
この/こ/も/をさなき/を いか/なら/む/と/おぼせ/ど さ/の/も/え/おぼし/のどむ/まけれ/ば さりげなき/すがた/にて かど/など/ささ/ぬ/さき/に/と いそぎ/おはす
この子も幼いからどうなることだろうと君は配されるが、そんなふうに案てばかりで引き伸ばせてもおられず、外出には向かない普段着のまま、門が締まる前に着こうと急いでお越しになる


《人見ぬより引き入れて 降ろしたてまつる》011
ひと//ぬ/かた/より/ひきいれ/て おろし/たてまつる
人目に立たぬ場から車を引き入れて、君を下ろし申し上げる。


《童なれば 宿直人どもことに見入れ追従せず やすし》012
わらは/なれ/ば とのゐびと/など/も/こと/に/いれ/ついせう/せ/ず こころ/やすし
がこの家の子供なので、宿直人ども特に気に留めたり、付いて来たりせず、見つかる配がない。


《東の妻戸に 立てたてまつりて 我は南の隅の間より 格子叩きののしりて入りぬ》013
ひむがし/の/つまど/に たて/たてまつり/て われ/は//の/す/の/ま/より かうし/たたき/ののしり/て/いり/ぬ
建物の東に面した妻戸に君をお立て申し上げて、自分は南の隅の柱の間から、格子を叩き、大きな声を出しながら中に入って行った。


《御達 あらはなりと言ふなり》014
ごたち あらは/なり/と/いふ/なり
女房たちが「丸見えよ」と言う声がする。


《なぞ かう暑きに この格子は下ろされたると問へば》015
なぞ かう/あつき/に この/かうし/は/おろさ/れ/たる/と/とへ/ば
「どうしてこんなに暑いのに、この格子はおろしておかれたのです」と問えば、


《昼より西の御の渡らせたまひて 碁打たせたまふと言ふ》015
ひる/より/にし-の-おほむ-かた/の/わたら/せ/たまひ/て ご/うた/せ/たまふ/と/いふ
「昼から西の対のおがお越しになって、碁を打っておられるのです」と言う。


さて向かひゐたらむ見ばやと思ひて やをら歩出でて 簾のはさまに入りたまひぬ》016
さて/むかひ/ゐ/たら/む/を//ばや/と/おもひ/て やをら/あゆ/いで/て すだれ/の/はさま/に/いり/たまひ/ぬ
そんなふうに二人で碁盤を挟んで向かい合っている姿を見たいと思い、そっと妻戸の前から簀子に出て、格子の内外に垂れる二重簾の間にお入りになった。


《この入りつる格子はまだ鎖さねば 隙見ゆるに 寄りて西ざまに見通したまへば》017
この/いり/つる/かうし/は/まだ/ささ/ね/ば ひま/ゆる/に より/て/にし-ざま/に/とほし/たまへ/ば
小君が入っていったこの格子はまだ閉ざされていないので、内側の簾の隙間越しに中が見えるまで近寄って、西向きにごらんになると、


《この際に立てたる屏風 端のおし畳まれたるに 紛るべき几帳なども 暑ければにや うち掛けていとよく見入れらる》017
この/きは/に/たて/たる/びやうぶ はし/の/かた/おし-たたま/れ/たる/に まぎる/べき/きちやう/など/も あつけれ/ば/に/や うち-かけ/て/いと/よく/いれ/らる
格子の側に立ててある屏風の端がたたまれている上、視界をふさぐ几帳なんかも暑さのせいか、帷子がまくり上げてあるので、とてもよく見通される。


《火近う灯したり》018
ひ/ちかう/ともし/たり
二人の近くに灯が点してある。


《母屋の中柱に側める人やわが心かくると まづ目とどめたまへば 濃き綾の単衣襲なめり》019
もや/の/なか-ばしら/に/そばめ/る/ひと/や/わが/こころ/かくる/と まづ/め/とどめ/たまへ/ば こき/あや/の/ひとへ-がさね/な/めり
母屋の中柱のあたりで横向きの姿勢の人が自分がを寄せる人だろうかと、先ず目をお留めになると、下着は濃い紫の綾織りの単衣襲だろうか、


《何にかあらむ上に着て 頭つき細やかに小さき人の ものげなき姿ぞしたる》020
なに/に/か/あら/む/うへ/に/き/て かしらつき/ほそやか/に/ちひさき/ひと/の ものげなき/すがた/ぞ/し/たる
何かその上に着て、頭の形もほっそりとした小柄な人が特に目立つ特徴もない姿で座っており、


《顔などは 差し向かひたらむ人などにも わざと見ゆまうもてなしたり》021
かほ/など/は さしむかひ/たら/む/ひと/など/に/も わざと/ゆ/まう/もてなし/たり
その顔などは、差し向かいにいる人などにもわざと見られないようにがけている。


手つき痩せ痩せにて いたうひき隠しためり》022
てつき/やせやせ/にて いたう/ひき-かくし/た/めり
の具合は痩せに痩せ、石を置くにも袖から出ぬようひどく気にしている様子である。


《いま一人は 東向きにて 残るところなく見ゆ》023
いま/ひとり/は ひむがし-むき/にて のこる/ところ/なく/
もう一人は東向きに座っていて、残りなくすべてが見える。


《白き羅の単衣襲 二藍の小袿だつもの ないがしろに着なして 紅の腰ひき結へる際まで胸あらはに ばうぞくなるもてなしなり》023
しろき/うすもの/の/ひとへ-がさね ふたあゐ/の/こうちきだつ/もの ないがしろ/に/き/なし/て くれなゐ/の/こし/ひきゆへ/る/きは/まで/むね/あらは/に ばうぞく/なる/もてなし/なり
白い薄物の単衣襲で、ふた藍の小袿らしきものを無造作に着なして、紅色の腰紐を結んだあたりまで胸をあらわにした、だらしのないなりである。


《いと白うをかしげに つぶつぶと肥えて そぞろかなる人の 頭つき額つきものあざやかに ま口つき いと愛敬づき はなやかなる容貌なり》024
いと/しろう/をかしげ/に つぶつぶ/と/こエ/て そぞろか/なる/ひと/の かしらつき/ひたひつき/もの-あざやか/に ま/くちつき いと/あいぎやうづき はなやか/なる/かたち/なり
たいそう白く魅力的にふくよかに肥えて大柄な人で、頭や額の形も形よく、眼差しや口つきとても可愛げが、あでやかな顔立てである。


《髪はいとふさやかにて 長くはあらねど 下り端肩のほどきよげに すべていとねぢけたるところなく をかしげなる人と見えたり》025
/は/いと/ふさやか/に/て ながく/は/あら/ね/ど さがりば/かた/の/ほど/きよげ/に すべて/いと/ねぢけ/たる/ところ/なく をかしげ/なる/ひと/と/エ/たり
髪はとてもふさふさしていて、長くはないが、こめか横の髪の垂れ具合や髪の毛の肩へのひろがり具合が、どこも乱れた感がなくきれいに梳かれた、魅力的な髪の持ち主である。


《むべこそ親の世になくは思ふらめと をかしく見たまふ》026
むべ/こそ/おや/の/よ/に/なく/は/おもふ/らめ/と をかしく//たまふ
無理もないな、親が世になく慈しんでいるのも、と興味をもって御覧になる


地ぞなほ静かなる気を添へばやと ふと見ゆる》027
ここち/ぞ/なほ/しづか/なる/け/を/そへ/ばや/と ふと/ゆる
気持ちの面にはもう少し落ち着いた感を加えたいなと、ふとお考えになる


かどなきにはあるま》028
かど/なき/に/は/ある/ま
気はないわけではなさそうで、


《碁打ち果てて 結さすわたり げに見えて きはぎはとさうどけば 奥の人はいと静かにのどめて》029
ご/うち/はて/て けち/さす/わたり こころとげ/に/エ/て きはぎは/と/さうどけ/ば おく/の/ひと/は/いと/しづか/に/のどめ/て
碁を打ち終わって、駄目をつめる際には、気ぜわしいらしく、はやく白黒をつけると矢継ぎ早に大声で数えたてるので、奥の人はたいそうおだやかに制止して、


《待ちたまへや そこは持にこそあらめ このわたりの劫をこそなど言へど》029
まち/たまへ/や そこ/は/ぢ/に/こそ/あら/め この/わたり/の/こふ/を/こそ など/いへ/ど
「待ちたまえや、そこはセキではないかしら。このあたりの劫を先にしては」などと言うと、


《いで このたびは負けにけり 隅のところ いでいでと指をかがめて 十 二十 三十 四十などかぞふるさま 伊予の湯桁もたどたどしかるまう見ゆ》030
いで このたび/は/まけ/に/けり す/の/ところ いで/いで/と/および/を/かがめ/て とを はたち そ よそ/など/かぞふる/さま いよ/の/ゆげた/も/たどたどしかる/まう/
「いえ、今回は私の負けだわ。隅のところの目はどうかしら、さあさあ」と指を折って、「十、二十、三十、四十」など数える様子、あの数の多い伊予の湯桁もすらすら数えられそうな勢いである。


《すこしおくれたり》031
すこし/しな/おくれ/たり
すこし位が落ちる。


《たとしへなく口おほひて さやかにも見せねど 目をしつけたまへれば おのづから側目も見ゆ》032
たとしへなく/くち/おほひ/て さやか/に/も/せ/ね/ど め/を/し/つけ/たまへ/れ/ば おのづから/そばめ/も/
片やこれと異なり、袖で口をおおいはっきりと顔を見せないが、目をっとこらしてご覧になると、しぜんと横顔が見られる。


《目すこし腫れたる地して 鼻などもあざやかなるところなうねびれて にほはしきところも見えず》033
め/すこし/はれ/たる/ここち/し/て はな/など/も/あざやか/なる/ところ/なう/ねびれ/て にほはしき/ところ/も/エ/ず
目がすこし腫れた感がして、鼻どもすっと通ったところがなくくたびれて、匂い立つ美しさも見られない。


《言ひ立つれば 悪ろきによれる容貌をいといたうもてつけて このまされる人よりあらむと 目とどめつべきさましたり》034
いひたつれ/ば わろき/に/よれ/る/かたち/を/いと/いたう/もてつけ/て この/まされ/る/ひと/より/は/こころ/あら/む/と め/とどめ/つ/べき/さま/し/たり
断ずれば、良くないに入る容貌だが、とてもよく繕って、一の器量にすぐれる人よりはたしな深かろうと、誰しも目をとめずにおかぬ様子をしている。


《にぎははしう愛敬づきをかしげなるを いよいよほこりかにうちとけて 笑ひなどそぼるれば》035
にぎははしう/あいぎやうづき/をかしげ/なる/を いよいよ/ほこりか/に/うちとけ/て わらひ/など/そぼるれ/ば
片や陽気で人好きのする美形であるが、ますます得意げにから笑いはしゃぐので、


にほひ多く見えて さるにいとをかしき人ざまなり》035
にほひ/おほく/エ/て さる/かた/に/いと/をかしき/ひとざま/なり
匂いやかな美しさがあふれんばかりに感られ、その面ではとても魅力ある部類に属す。


《あはつけしとは思しながら まめならぬ御は これもえ思し放つまかりけり》036
あはつけし/と/は/おぼし/ながら まめ/なら/ぬ/こころ/は これ/も/え/おぼし/はなつ/まかり/けり
はすはな女だとお感になりながら、誠実さを欠く今の御では、こちらも見過ごしになれそうにはないのだった。

空蝉 注釈 03-001/03-036

ながらふ 03-001

生きつづける。

涙をさへ 03-001

涙まで。何プラス涙までかを考えるのが大事である。この場合は、姉への取次ぎに失敗した申し訳なさ。

さぐりの細く小さきほど髪のいと長からざりしけはひ 03-003

暗闇の中で、空蝉と契りを結んだときにの感触に残っている空蝉の記憶。このあたりはホモセクシャルを匂わせる。

思ひなし 03-003

血縁を思うせいか。

まめやかにめざまし 03-004

本気で不快に思う。めざましは予想や期待が覆されたときの感情。

のやうにものたまひまつはさず 03-004

いつもなら空蝉への取次ぎをあれこれ命るところなのに、今夜は光も底懲りてしまい、女を恨むことに意識はむかっている。

かたはらいたし 03-006

周囲に対して気がめること。この場合、光の愛を受け入れるべきでなかったのかとの王朝人の常識が彼女を周囲から孤立させいたたまれない思いに導く。かたはらいたしという感覚は、直接に光に申し訳ないというのではなく、漠然としたまわりに対しての感覚。

やがて 03-007

そのまま。光が逢いに来ても逢わなかったあのままの状態で。

つれなくて 03-007

無情に。

いとほしき 03-007

の要求や希望に応られず申し訳ないと思う気持ち。光に申し訳なく感ながらも応られない振る舞いとの意味である。

ながめ 03-007

視覚的には何かを見ているが焦点は対象に合わされておらず、自分のの中を見つめている状態である。

づきなし 03-008

につくことがない、すなわち、気に入らない。

かくてはえ止むまう御にかかり 03-008

このように動詞句が重なる表現は、その動詞句同士がどんな関係であるかを考えることが大切である。この場合、「かくてはえ止むまう」は御にかかった内容である。「……できそうもなく御こころにかかり」といった訳は現代語として馴染まない。

人悪ろく思ほしわびて 03-008

これも動詞句の重なり。ここは「思ほしわぶ」の内容が「人悪ろく」と一般に解釈されているが、思いわびる様子が人からっともなく見えるということ。

うれたう 03-008

うれたしの音便。意味は忌々しい。

思ひ返せ 03-008

思っていることをひっくりかえす。止めようと思う。

にしも従はず 03-008

」は自分の中、意思、主体。それに気持ちが従わない。

さりぬべき 03-008

対面するのによい、適当な。

かかるにても 03-008

恋の引き役であっても。

いかならむ折 03-009

源氏を空蝉に遭わせるのにどういう機会がよかろうとの意味。

どち 03-009

女だけ。

道たどたどしげなる 03-009

「夕闇は道たどたどし月待ちて帰れわが背子その間にも見む」(『古今六帖』)による。夕闇の道は探りで進むように暗くて進にくいこと。

さのみもえ思しのどむまけれ 03-010

そのように配ばかりして時間を無駄にはできないとの意味。

思しのどむ 03-010

のんびりするの意味ではなく、そのようにばかり思い、時間を引き延ばす(思し+のどむ)である。

さりげなき姿 03-010

「さありげなき姿」はそうある風でもない姿。外出には外出に向いた格好があるが、それに適さない姿、すなわち普段着のまま。

門など鎖さぬ先に 03-010

夜になると門など入り口がいっさい締まるから。

童なれば 03-012

「童」はこの家の子供。車から人が降りれば、誰なのか警備員である宿直人は注意するが、小君の車だから警戒されずにすむ。子供なら誰にでも警戒されないのではない。相がこの家の子供であるからである。そのために、申し訳ないが光を自分のすぼらしい車にお乗せしているのだ。

見入れ 03-012

警戒して注意する。

追従 03-012

機嫌をとるでは脈的に意味がない。ここは、誰がいっしょなのかと怪しんで後をついて来ること。

やすし 03-012

小君といっしょだから、見つかるどうかはらはらせずにすんだ。

妻戸 03-013

簀子(縁)と廂の間にある両開きの戸。建物の四にあるとされていたが、西の対や東の対につづく渡殿(建物間の渡り下)に面してあるものなので、建物の南北にはないと現在は考えられている。東に二つ西に二つ、それぞれ隣接した感で並ぶ。ここは、後のくだりから判断して、そのうちの東に面した南側の妻戸。元来、女性を尋ねたきた男性は、妻戸の前の簀子に座って、女房に取次ぎ、中に入ってよいかどうかを尋ねる。小君が光を妻戸の前に立たせたのは、そうした男女のやりとりの形式にならうやりをとっているのである。ただし、相が貴族であるので座らせずに立っていただいているのであろう。

南の隅の間 03-013

東西の出入り口は妻戸であるが、南北の出入り口は格子である。ここは南に面した格子のうち一番東側。

叩きののしりて 03-013

注意を自分に引きつける。

御達 03-014

女房たち。

あらはなり 03-014

露わに見えること。格子を開けたまま小君は入ったのである。

西の御 03-015

空蝉の帖のもう一人のヒロインである、西の対に住んでいる軒端荻。伊予介の娘で、紀伊守の妹。

さて 03-016

御達が言うような状態で。

やをら 03-016

そっと。

出てて 03-016

妻戸の前より簀子に出る。それから東南の角を回り、小君が入っていった南に面した東端の格子の前に歩いてきた。

几帳 03-017

移動式のカーテンで、十字に木が交差しているうち、横木部分が帷子(かたびら)という薄いカーテンになり、縦木は支えとなっている。

うち掛け 03-017

暑いから帷子を横木にまくり上げている。

灯近う 03-018

どこに灯りが近いのか不明だが、光の興味の対象である碁をかこむ二人の女性の近くと考えるのが適当であろう。光の近くではまぶしすぎて逆光になる

中柱 03-019

部屋の中ほどにあって壁面に接していない柱。

側める 03-019

横目、横向き。

濃き 03-019

濃い紫。

単衣襲 03-019

夏用の下着。古くは二枚着ていたものを、合わせてひとえになった。

ものげなき姿 03-020

地味で、特徴のない姿。

もてなし 03-021

意識的にがけること。

いたうひき隠しためり 03-022

碁石を置く際に袖口から痩せたが出ないように注意を怠らないこと。

羅 03-023

透けてえるような薄い絹地のもの。

二藍 03-023

藍草(藍)で染めた上に紅花(くれの藍)で染めたもの。

小袿 03-023

女子が人前に出るときの服装。

ないがしろ 03-023

無頓着。

ばうぞく 03-023

しどけない。

そぞろかなる 03-024

背が高い。

ものあざやかに 03-024

輪郭がとてもくっきりとしている。

下がり端肩のほど 03-025

「下がり端」はこめかと耳の間あたりの横髪で、胸のあたりで切りそろえた垂れ髪。「肩」は肩にかかる髪。「ほど」は「下がり端」と「肩」の両を受ける。や髪の垂れ具合であり、や髪の広がり具合である。

ねぢけたる 03-025

これは性格についての描写ではない。第一見ただけで性格がねけているかどうかなどわかるはずがない。これは髪の描写のつづき。よく梳られてまっすぐしている髪であることをいう。王朝美のひとつの極致。続く、「をかしげなる」も髪の美しさ。

かどなきにはあるま 03-028

「たどたどしかるまう見ゆ」にかかる。気はなくはないのだろう、多数の数もかるがると数えてしまいそうだ、と続く。従って、この「かどなきにはあるま」は多分に皮肉めいていよう。実際、空蝉はあまり利発には描かれていない。雨夜の定めの議論「頭中将/ただ片かどを聞き伝へてを動かすこともあめり」「光源氏/(その片かどもなき人はあらむや/02-023」が思い起こされる。

結 03-029

駄目のことで、どちらの地にもならない空

げに 03-029

せわしく。

きはぎはと 03-029

意味が確定できない語のひとつ。てきぱきとか訳されるが、その訳語では正しくきちんとした感があるが、空蝉が注意しているように、その数えが粗雑である。この石はこちらの側、この石はこちらの側と、大雑把にどんどん数えていくというニュアンスではないかと思う。気持ちの上で落ち着きを加えたいと光が感たのは、こうした粗雑さがあるから。「そうどけ」は騒々しいふるまい。

いと静かにのどめて 03-029

「静かに」は「のどめ」の形容。「のどめ」は相を制止する。自分が落ち着いているとの形容ではない。自動詞と他動詞で活用が違う場合、下二段活用になる動詞は原則として他動詞である。

持 03-029

セキ。勝敗のない個

まめやかにめざまし 03-004

本気で不快に思う。めざましは予想や期待が覆されたときの感情。

劫 03-029

最後のヨセに入ってからの半劫。一目を白黒交互に取り返す形になった。相が取った後すぐに取り返すことができないので、まず他のに自分が打って、相に受けさせてから取る(この当たりの碁の用語は、囲碁を知らない私には他の注釈を丸写しするしかないのがつらい)。

いで 03-030

さあさあと相を促す。

伊予の湯桁 03-030

数の多いものの代表として持ち出した。軒端荻が伊予介の娘であることが「伊予」にはかかっている。

たどたどしかるまう 03-030

もたつかない。すらすらと。

たとしへなく 03-032

軒端荻に比べて全然違うこと。

目をし 03-032

「し」は強意。目をば。

ねびれて 03-033

老けて。

悪ろきによれる 03-034

よくない顔の側に寄っている、すなわち、よくないである。よくないに近いという日本語は不自然。悪いに近いという日本語はあるが、少し意味がずれる。

あらむ 03-034

顔をおおったり、痩せたを隠したり、正面から顔をさらさぬように工夫したりしている面でたしながあるということ。

いよいよほこりかにうちとけて笑ひなどそぼるれば 03-035

「ほこりかにうちとく」(得意そうにをゆるす)というかかりができないのだから、「いよいよ」は「うちとけて」にかかるのではなく、「そぼるれば」にかかる。「ほこりかに」と「うちとけて」は並列の関係で「笑ひなどそぼるれば」にかかる。

さるに 03-035

その面では。すなわち外見。精確には匂わしさの面。空蝉と軒端荻の決定的違いは、「にほはしきところ」の有無。

にほひ 03-035

今風に言えば、性的刺激物質、女性フェロモンなのであろう。それは、「あらむ」という「」の問題でなく、視覚的な面におおく負っていることが、この章からわかる。平安朝の恋愛は、和歌や字や楽器のうまさなどの教養面が中であるかのように説かれるが、そうした間接的刺激よりも、透き見という生の刺激が強烈であろうことは想像にかたくない。しかし、それのでは動物に変わりなく、それをいかに化的な脈に置き換えて行かが、その時代の化水準の高低を決定するのであろう。

人ざま 03-035

人柄ではない。現代語の人柄は性格の意味であり、軒端荻の性格は問題にしていない。この「人ざま」はタイプの意味。におわしさの面ではとても魅力的なタイプの女性だ、ということ。

あはつけし 03-036

軽はずな。

03空蝉 原 01章001/036

寝られたまはぬままには 我はかく人に憎まれてもならはぬを 今宵なむ初めて 憂しと世を思ひ知りぬれば 恥づかしくて ながらふうこそ思ひなりぬれなどのたまへば 涙をさへこぼして臥したり いとらうたしと思す さぐりの 細く小さきほど 髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも 思ひなしにやあはれなり あながちにかかづらひたどり寄らむも 人悪ろかるべく まめやかにめざましと思し明かしつつ のやうにものたまひまつはさず 夜深う出でたまへば この子は いといとほしく さうざうしと思ふ 女も 並々ならずかたはらいたしと思ふに 御消息も絶えてなし 思し懲りにけると思ふにも やがてつれなくてたまひなましかば憂からまし しひていとほしき御振る舞ひの絶えざらむもうたてあるべし よきほどに かくて閉ぢめてむと思ふものから ただならず ながめがちなり 君はづきなしと思しながら かくてはえ止むまう御にかかり 人悪ろく思ほしわびて 小君に いとつらうも うれたうもおぼゆるに しひて思ひ返せど にしも従はず苦しきを さりぬべきをり見て 対面すべくたばかれとのたまひわたれば わづらはしけれど かかるにても のたまひまつはすは うれしうおぼえけり 幼き地に いかならむ折と待ちわたるに 紀伊守国に下りなどして 女どちのどやかなる夕闇の道たどたどしげなる紛れに わが車にて率てたてまつる この子も幼きを いかならむと思せど さのみもえ思しのどむまければ さりげなき姿にて 門など鎖さぬ先にと 急ぎおはす 人見ぬより引き入れて 降ろしたてまつる 童なれば 宿直人どもことに見入れ追従せず やすし 東の妻戸に 立てたてまつりて 我は南の隅の間より 格子叩きののしりて入りぬ 御達 あらはなりと言ふなり なぞ かう暑きに この格子は下ろされたると問へば 昼より 西の御の渡らせたまひて 碁打たせたまふと言ふ さて向かひゐたらむ見ばやと思ひて やをら歩出でて 簾のはさまに入りたまひぬ この入りつる格子はまだ鎖さねば 隙見ゆるに 寄りて西ざまに見通したまへば この際に立てたる屏風 端のおし畳まれたるに 紛るべき几帳なども 暑ければにや うち掛けて いとよく見入れらる 火近う灯したり 母屋の中柱に側める人やわが心かくると まづ目とどめたまへば 濃き綾の単衣襲なめり 何にかあらむ上に着て 頭つき細やかに小さき人の ものげなき姿ぞしたる 顔などは 差し向かひたらむ人などにも わざと見ゆまうもてなしたり 手つき痩せ痩せにて いたうひき隠しためり いま一人は 東向きにて 残るところなく見ゆ 白き羅の単衣襲 二藍の小袿だつもの ないがしろに着なして 紅の腰ひき結へる際まで胸あらはに ばうぞくなるもてなしなり いと白うをかしげに つぶつぶと肥えて そぞろかなる人の 頭つき額つきものあざやかに ま口つき いと愛敬づき はなやかなる容貌なり 髪はいとふさやかにて 長くはあらねど 下り端 肩のほどきよげに すべていとねぢけたるところなく をかしげなる人と見えたり むべこそ親の世になくは思ふらめと をかしく見たまふ 地ぞ なほ静かなる気を添へばやと ふと見ゆる かどなきにはあるま 碁打ち果てて 結さすわたり げに見えて きはぎはとさうどけば 奥の人はいと静かにのどめて 待ちたまへや そこは持にこそあらめ このわたりの劫をこそなど言へど いで このたびは負けにけり 隅のところ いでいでと指をかがめて 十 二十 三十 四十などかぞふるさま 伊予の湯桁もたどたどしかるまう見ゆ すこしおくれたり たとしへなく口おほひて さやかにも見せねど 目をしつけたまへれば おのづから側目も見ゆ 目すこし腫れたる地して 鼻などもあざやかなるところなうねびれて にほはしきところも見えず 言ひ立つれば 悪ろきによれる容貌をいといたうもてつけて このまされる人よりあらむと 目とどめつべきさましたり にぎははしう愛敬づきをかしげなるを いよいよほこりかにうちとけて 笑ひなどそぼるれば にほひ多く見えて さるにいとをかしき人ざまなり あはつけしとは思しながら まめならぬ御は これもえ思し放つまかりけり

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