こころやすく こころやすし 心安く 心安し 01-173
心安らかに。悩みや心配のない状態。成人したために、帝の側にいても、これまでのように夫人の元に出入りできない。この埋められぬ距離が悩ましさの種となる。
源氏の君は 主上の常に召しまつはせば 心安く里住みもえしたまはず 心のうちには ただ藤壺の御ありさまを 類なしと思ひきこえて さやうならむ人をこそ見め 似る人なくもおはしけるかな 大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれど 心にもつかずおぼえたまひて 幼きほどの心一つにかかりて いと苦しきまでぞおはしける
源氏の君は帝がいつも側にお召し置きになるので、心のどかに里家でお住みになることもなく、心中ではただ藤壺のお姿を最上であるとお慕い申し上げて、そうした方とこそ契りを結びたいが、似る人さえもいらっしゃらないものだ、左大臣の娘は、とても大切に育てられた人とは御覧になりながらも情が移りそうにないとお感じになって、幼ない心は藤壺のことのみにかかり切りひどく苦しいまで思い詰めておられた。