みこころばへありておどろかせたまふ 御心ばへありておどろかせたまふ みこころばえありておどろかせたまう 御心ばえありておどろかせたまう 01-159

2021-05-16

「おどろかす」は気づかせる、注意を喚起するの意味。注意する内容は、注意を受ける側にとって、予期していなかったことでなければならない。この箇所は通例、添臥の件について帝が念押しすると解釈するが、すでに念頭にあることを再度確認するのでは、「おどろかす」の語義と相反する。帝の歌の内容が左大臣にとって意表をついたものでなければならない。前のフレーズ「例のことなり/01-158」とある通り、ここは「引入の大臣」役への労いの場面であり、公事としての礼である。従って、帝の歌い出し「いとけなきはつもとゆひに長き世を」と聞いて、大臣が予期したのは、若宮の元服ないしは娘の婚儀に対する公的な祝(ほ)き歌であった。しかし、予期に反して帝が歌に籠めたのは、大臣個人ないしは大臣家にとっての私的感情であった。公的なものの中に私的なものを籠める趣向におどろかされたのである。「(心)はへ」の本義は(心が)守備範囲から越境すること。もっとも公的なものの中に私的感情を入れ込むことはこの帝のお家芸である。ここからは深読みにすぎるかも知れないが、帝という公的存在が私的な部分を見せることは、ひとえにその者を信頼した証である。左大臣は東宮でなく一世源氏となる若宮を選んだその選択に対して、帝は私的に賛成することを言外に表明したのである。そして私的応援の誓いの品として左大臣には特別の品が与えられるのだ/01-161。そこまで読めば、この一文だけでも緊張感のあるドラマが展開されていることがわかるだろう。


御盃のついでに
 いときなき初元結ひに 長き世を 契る心は 結びこめつや
御心ばへありて おどろかさせたまふ

お杯を賜るついでに、 いたいけな宮が初めて髪を結ぶ元結には末長い寿ぎの気持ちに娘との末長いえにしの願いをこめたであろうの 元結の礼に結婚の祝福のご趣向もあって大臣をはっとおさせになる。

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