あるまじきはぢもこそ あるまじきはじもこそ あるまじき恥もこそ 01-026
「かかる折りにも」とあるので、普段から案じていたことである。そうであれば、「内裏では死者を出すことへの恥だ」とか、「死の穢れに触れる恥を御子に与えてはいけない」等の解釈は成り立たない。御息所にとって一番の心配は息子の将来である。この時点はまだ東宮は決定されていない。一の御子との東宮争いにおいて、若宮を連れて帰るのと帝の側に残して置くのと、どちらが有利に働くか。死穢にあたれば、東宮候補としてマイナスになる。若宮がいない間に弘徽殿の女御方がいろいろと帝に働きかけるに違いない。自分の亡き後の心配を普段からしていて、若宮を残こす判断をしたまでのこと。「恥」とは、東宮候補である光源氏の体面を穢すことである。結果から見れば、桐壺更衣は間もなく亡くなり、光源氏は規則として宮中を去ることになる。しかし、母が亡くなる現場に居合わせた場合と、亡くなってから規則に従い里で母の喪に服すことと、死穢の程度は格段に違ったことと思われる。
かかる折にも あるまじき恥もこそと心づかひして 御子をば留めたてまつりて 忍びてぞ出でたまふ
そうした折りにも東宮権に障るような不面目が起きてはと案じて、御子を帝のもとにお留め申して、涙をのんで局(つぼね)を後になさるのです。