きこえごちはべりしかど 聞こえごちはべりしかど 02-114

2021-06-06

「聞こゆ」は、自動詞で「聞こえてくる」(「ゆ」は受け身、ないし自発)、他動詞で「申し上げる」(「言ふ」の謙譲語)。他動詞用法では、主体が娘の父親となり、藤式部丞に対して謙譲語を用いるのはおかしい。直前の「となむ」の後ろに「仰せらるる」等を補い、博士から命じられて、藤式部丞がくちづさんだと考えることもできるが、「聞君欲娶婦、娶婦意如何」という詩の内容と齟齬する。やはり、父が訥々と歌い出したのを、藤式部丞が耳にしたと考えるのがよいだろう。「聞こえ」は自動詞用法である。父である博士は、貧しさに耐えることを訓戒すると同時に、「婦を娶るの意はいかんや(娶婦意如)」と、藤式部丞に問い詰めたであろうとことがうかがえる。貧しくとも将来連れ添うことを誓わされたであろう。


親聞きつけて 盃持て出でて わが両つの途歌ふを聴けとなむ 聞こえごちはべりしかど をさをさうちとけてもまからず かの親の心を憚りて さすがにかかづらひはべりしほどに

親が聞きつけ杯を持ち出して、「わがふたつの途歌うを聴け」と訥々と諳んじになるのが聞こえて参りましたが、ろくすっぽ打ち解けた気分で出かけてもゆかず、親の心情を気遣ってさすがによしみは絶やさずいましたうちには、

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