みなわらひぬ みな笑ひぬ みなわらいぬ みな笑いぬ 02-112
「みな笑ひぬ」には敬語が使われていない。この「みな」は「話に参加しているもの皆」の意味であって、光はその場にいながら笑いの輪には加わっていなかったことがわかる。雨夜の品定めにより中流の女に興味を持つようになり、以後の帖で、実際に中流の女性たちと関係してゆくと一般には理解されているが、繰り返すが、以後の帖で中流の女性たちと関係は結ぶが、それはこの帖で興味をもったからではなくて、興味はなかったが、そういう運命であったから、中流の女性と交わるのである。もっと言えば、ここで言葉として中流女性が話題になったから、関心はなくともそういう方向に物語は展開していくのである。先に「言―事」構造と名づけた、源氏物語に通底する物語構造である。ただし、この構造は一人、紫式部のものではなく、おそらく平安という時代は、言語と事柄との関係が裁断されておらず、いまだ混沌とした関係にあったことが、そうした構造を作り出しているのではないか。
吉祥天女を思ひかけむとすれば 法気づきくすしからむこそ また わびしかりぬべけれ とて皆笑ひぬ
吉祥天女に思いをかけようとしたとしても、抹香臭く人間離れしている点で、やはり気萎えしてしまうことでしょう」と言って光の君以外はみな笑った。