おりはべりぬかし 下りはべりぬかし おる 下る 降る 02-104

2021-06-03

月は美しいし、妻の元にはしばらく通っていないし、上人が興味津々なら、人待ちしている宿に連れて行って、そねませてやるかくらいの意識でふたりで降り立ったのであろう。上人の意図と、左馬頭が持ち得ている情報量の少なさを考慮しないと、初めからこけにされるのを承知で、上人を妻のもとに連れて行ったかのような、わけのわからない解釈になってしまう。


神無月のころほひ 月おもしろかりし夜 内裏よりまかではべるに ある上人来あひてこの車にあひ乗りてはべれば 大納言の家にまかり泊まらむとするに この人言ふやう 今宵人待つらむ宿なむ あやしく心苦しきとて この女の家はた 避きぬ道なりければ 荒れたる崩れより池の水かげ見えて 月だに宿る住処を過ぎむもさすがにて 下りはべりぬかし

神無月の頃月の美しい夜に、内裏より退出いたしました折り、ある殿上人と行きあいわたしの牛車に途中まで相乗りすることなりましたので、大納言の家に出向いて宿る予定といたしましたところ、この人が言うには「今宵人持ちしてる宿のことがどうにも気がかりで」と、折しも例の女の家が道沿いで避けることはならず、荒れた築地のくずれからは池に映った月影がのぞかれ、月ですら宿る住みかを素通りするのもさすがに心苦しくつい二人して降り立ってしまったのです。

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