とて 02-120

2021-01-14

上人が今宵の月の美しさから、こんな夜に夫の来ない女性は気の毒だなと漠然と言ったことと、二人で牛車から降り立つまでには時間的経過がある。それが「て」で表されている。上人は最初から左馬頭をコケにする意図があったろうが、左馬頭の側からはそれはまだわからない。


神無月のころほひ 月おもしろかりし夜 内裏よりまかではべるに ある上人来あひてこの車にあひ乗りてはべれば 大納言の家にまかり泊まらむとするに この人言ふやう 今宵人待つらむ宿なむ あやしく心苦しきとて この女の家はた 避きぬ道なりければ 荒れたる崩れより池の水かげ見えて 月だに宿る住処を過ぎむもさすがにて 下りはべりぬかし

神無月の頃月の美しい夜に、内裏より退出いたしました折り、ある殿上人と行きあいわたしの牛車に途中まで相乗りすることなりましたので、大納言の家に出向いて宿る予定といたしましたところ、この人が言うには「今宵人持ちしてる宿のことがどうにも気がかりで」と、折しもの女の家が道沿いで避けることはならず、荒れた築地のくずれからは池に映った月影がのぞかれ、月ですら宿る住かを素通りするのもさすがに心苦しくつい二人して降り立ってしまったのです。

ヴァリエーション:
とて

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