ことふえのねにきこえかよひ 琴笛の音に聞こえかよひ きこえかよふ 聞こえかよふ 聞こえ通ふ 聞こえ通ひ 01-175

2021-05-16

琴は藤壺の宮が、笛は光源氏が演奏する。「聞こえ通ひ」とあるので、互いに楽器のかなでる音を通して、思いを通わせあうのである。思いを通わせ合うとは、当然ながら、通わせ合う「思ひ」がなければならない。これまで光源氏からの一方的なものであったのが、ここで通わせ合ったとは、これ以前に密通がなされたことをうかがわせる。「主上の常に召しまつはせば…幼きほどの心一つにかかりて/01-173」とあり、元服前のこと。「大人になりたまひて後はありしやうに御簾の内にも入れたまはず/01-174」は、元服後のこと。「五六日さぶらひたまひて大殿に二三日など絶え絶えにまかでたまへどただ今は幼き御ほどに罪なく思しなして/01-176」は元服の夜に婿として婚儀を催した後のこと。それなのに「幼き」はひっかかる言い方である。また幼いから罪がないというのも、とってつけた感がある。ここでの罪とは、娘と初夜をふくめて何日か過ごしながら、娘を抱かなかったことをほのめかす。まだ娘と通じていないことが「幼き」であり「罪」なのである。

ここからは想像に過ぎないことを断っておく。光源氏の行動様式として誰も予想しない時こそ最大のチャンスと考える向きがある。藤壺を狙っている光源氏にとって、最大で最後のチャンスは、元服の夜、大臣邸へ通った初夜の朝である。葵の上との婚儀の裏には、藤壺との関係が位相を反転させて描かれているように思えてならない。帝の妻を寝取ることは直接に描けることではない。しかし、それを匂わせなければ物語が真を得ない。この手法はさまざまな形で現れる。たとえば、空蝉との強引な関係は藤壺との密事を想像させるなど。おいおい考えることにしよう。


御遊びの折々 琴笛の音に聞こえかよひ ほのかなる御声を慰めにて 内裏住みのみ好ましうおぼえたまふ

管絃の遊びの折り折りには、藤壺の琴と笛の音を合わせ漏れ聞こえるお声を慰めにして、内裏住みばかり好ましくお思いになった。

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