なぐさむかたなくおぼししづみ 慰む方なく思し沈み なぐさむかたなくおぼししづむ 慰む方なく思し沈む 01-109
死の原因を説明している箇所。母君の死は、娘の更衣の死をひたすら悲観して亡くなったもので、若宮が皇太子になれなかったこととは因果関係がないとの意見がある。皇太子の決定と祖母の死の間に二年間のブランクがあることがその根拠らしいが、むろん賛成できない。なぜなら、「おはすらむ所にだに尋ね行かむ」の「だに」が意味をなさないからである。娘の死は六年前である。「だに」が前の文脈(若宮が皇太子になれなかったので、せめてもの希望として)を受けないとなると、六年間娘の死をひたすら嘆き、せめて娘の元に行きたいと願い続けたことになる。若宮こそがこの一族を勃興させる命綱であることを全く無視した解釈であろう。帝自身が母君への伝言で「かくても、おのづから、若宮など生ひ出でたまはば、さるべきついでもありなむ。命長くとこそ思ひ念ぜめ((不幸にして娘は失ったが)こうなった今でも、宮などご成長なさったら、おのずと相応な機会もきっとある。長生きをこそ念じなさい)/01-089」とある。若宮を帝の後継者として見守ることが残された祖母の役割であり、その希望が絶たれたことが引き金となって、ひたすら娘の元に行きたいという願うようになって、その結果亡くなったとよむのが、文脈に沿った読み方だと思う。
かの御祖母北の方 慰む方なく思し沈みて おはすらむ所にだに尋ね行かむと願ひたまひししるしにや つひに亡せたまひぬれば またこれを悲しび思すこと 限りなし
かの宮の祖母は(東宮擁立が夢と消えた今)心の慰めようなく悲嘆にくれ、せめて娘のおられるところに行きたいものとお念じになったご利益からか、ついに身罷ってしまわれたので、今またあの方の縁者を失った帝の悲しみは限りがなかった。