いとかうしもみえじ いとこうしもみえじ いとかうしも見えじ いとこうしも見えじ 01-087
「かうしも」は母君の歌「(帝は)静心なき/01-086」を受ける。通例、桐壺の母君のように「乱りがはし」く見られたくないと解釈するが、一国の帝が更衣の母を基準に行動規範を考えるなどということはあり得ない。第一、母君は取り乱してはいない。前文の注を参照。
いとかうしも見えじと思し静むれど さらにえ忍びあへさせたまはず 御覧じ初めし年月のことさへかき集め よろづに思し続けられて 時の間もおぼつかなかりしを かくても月日は経にけり とあさましう思し召さる
帝は人からそんな風には見られまいと気持ちを静めようとなさるが、少しも我慢おできにならず、あの方と初めて契りを交わした日まで遡り、ありとあらゆる追想に耽られて、往事は束の間もいたたまれなかったが、それでも月日は過ぎ行くものかと、我が身ながらあきれてしまわれるのでした。