あまたさるまじきひとのうらみをおひし あまたさるまじきひとのうらみをおいし あまたさるまじき人の恨みを負ひし あまたさるまじき人の恨みを負いし 01-073
恨みを負ふ主体を死んだ更衣と考える解釈があるが、「主上もしかなむ」が意味をなさなくなる。帝が人より受けた恨みとは、「人のそしり」を受け、上達部や上人から「目を側め」られ、「人のもてなやみぐさにな」り、「楊貴妃の例も」引き合いに出されかねない状況に追い込まれたことをさす。
我が御心ながら あながちに人目おどろくばかり思されしも 長かるまじきなりけりと 今はつらかりける人の契りになむ 世にいささかも人の心を曲げたることはあらじと思ふを ただこの人のゆゑにて あまたさるまじき人の恨みを負ひし果て果ては かううち捨てられて 心をさめむ方なきに いとど人悪ろうかたくなになり果つるも 前の世ゆかしうなむと うち返しつつ 御しほたれがちにのみおはしますと 語りて尽きせず
おのが御心ながらあながちに人目を驚かせるばかりに思われたのも、長く続くはずもないことであったと、今はつらく思われるえにしで、つゆいささかも人の気持ちを損ねる気など思ってもみないことなのに、ただこの人ゆえにあまたの受けずともよい人の恨みを負った果て果てが、こんな風に一人うち捨てられ、心を静めるすべもないうえに、ますます恥も知らず頑なに成り果ててしまったのも、どうした前世の因縁か知れるものならと、帝を責める母君の言葉を切り替えしながら、悲嘆の涙に暮れてばかりおいでですと命婦は語って尽きることがない。