ないしのすけそうしたまひしを ないしのすけそうしたまいしを 典侍の奏したまひしを 典侍の奏し給ひしを 01-057
省略されているが、すでに典侍が母君の元を訪れ、その時の模様を帝に報告している。その復命の言葉を命婦は聞いていたとの設定。省略は源氏物語の重要な技法のひとつ。あなたのような立派なお方が来られては「恥ずかしい」と言って、母君が距離を置こうとしたのに対して、それは取り合わず、まったく耐え難いことですねと同情から入って、帝の言葉を伝える。「を」は一般に接続助詞とされるが、詠嘆を表す間投助詞とも考え得る。その方が「げにこそ」の感動が意味をなす。また接続がはっきりしないことからも、間投助詞を支持する。
参りては いとど心苦しう 心肝も尽くるやうになむと 典侍の奏したまひしを もの思うたまへ知らぬ心地にも げにこそいと忍びがたうはべりけれとて ややためらひて 仰せ言伝へきこゆ
お訪ねしましてはますます心が痛み魂も消え入りそうでと、以前典侍が奏上なさっていましたが、情理にうといふつつか者にも、全くもって忍びがたかろうと存じますと言い、しばし心を静めてから、命婦は帝の仰せごとをお伝え申し上げる。